希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！｜リアクション

希望＜ネガイ＞が現実＜ホント＞になるところ。それがらっかみ！

【２】剣崎エレナの世界アイドル宣言！
　エイプリルフールの前日、巫部紫苑は小籠包を摘まみながら旧市街の気ままな散策を楽しんでいた。
　その時、一人の人物を目にした。地味な毛糸の帽子を被り、サングラスを掛けていた。グレーのトレンチコートのポケットに両手を突っ込んでせかせかと歩く。
「エレナ先輩？」
　長い金髪の一部が見えていた。ただし特徴的な縦ロールではなかった。紫苑の声が届く距離にいたが足を緩めることはなく、人込みの中に紛れて消えた。
「人違いみたいですね。でも、お嬢様の気品がありました」
　先程の人物とは別の道へと歩き出す。何かを思い付いたのか。歩みが遅くなった。
　――本物のエレナ先輩でしたら、たくさんのメイドさんに囲まれて、日々を過ごしているのでしょう。あの衣装には少し興味があります。
　微笑みを浮かべて最後の小籠包を口に収めた。
「次はスイーツにしましょう」
　見つけた洋菓子店に軽やかな足取りで入っていった。

　翌朝、紫苑はこじんまりとした部屋にいた。最低限の家具に大きな姿見が置かれていた。「ここはどこなのでしょう」
　唯一の扉に向かう途中で足を止めた。姿見に映る姿に、あら、と驚きの声を漏らす。
「私がメイドさんになっています」
　頭部にはフリルの付いた白いカチューシャ。黒地の服には白いエプロンドレスを纏っていた。
　紫苑は柔らかい笑みでスカートの裾を摘まんで軽くお辞儀をした。
「楽しそうだからいっか♪」
　部屋を出ると大理石の廊下で石像や花瓶がバランスよく置かれていた。
「どこの宮殿でしょうか」
「巫部さん、部屋の掃除は終わった？」
「あら、エレナ先輩」
「誰が先輩よ。私は全世界のアイドルとして、世界中を飛び回る剣崎エレナなのよ。寝ぼけていないでちゃんとするように。用具室に清掃の道具は揃っているわ。あ、それと今日は寝子島で凱旋コンサートがあるからスタッフ兼ボディーガードをよろしく頼むわね」
　捲し立てるように言うとエレナは長い廊下を速足で歩いていった。
「私が知らない間に大変なことになっていました」
　紫苑は高い天井に感心しながら歩いて、ふと後ろを振り返る。エレナの姿は見えなくなっていた。
「用具室はどこなのでしょうか」
　小首を傾げた状態で片っ端から扉を開けていった。