ホラーハウスに行こうよ！｜リアクション

ホラーハウスに行こうよ！

　　【ハロー！　ナイスゲイ！！】

　「この我とした事が、一瞬記憶が飛んでいたらしい。この堕天使たる者、何という体たらく……！」
　引き戸が軽快な音を立てて閉まった所で、我に返ったルシフェル──もとい葦原忍穂は、後襟首を捕まえられて宙ぶらりんになっている事に気がついた。

　「ん～、ちょっと小柄ですけれども、こうプライドが高そうであればある程、嗜虐心をそそられますわんｖ」
　そう言うと、金髪碧眼の男──残念な要素「ケツアゴ」「青ヒゲ」「細マッチョ系」「すね毛」この４種の神器が揃ったダンディズム・オカマ、ミッシェル・ナイスゲイは、やはり軽々と忍穂を一人がけのソファーにポイと放り投げた。

　「何者だ、貴様……！！　このルシフェルをこんなにも容易に捕まえるとは、只者ではあるまい！」
　「んふっｖ　アタシはただ、男性の皆さんに新たな恐怖を与えに来た使者！
　決してこの美貌で新しい信者を増やそうなどとは思っておりませんわ。うふっｖ」
　くねくねした独特の歩行でミッシェルは、ふかふか過ぎて身動きの取れないでいたソファーに座る、忍穂の耳元に息を吹きかけた。
　「わ、分かったぞ！　その黒ずんだ思考！！　き、貴様は魔王サタンの分身だな！！」
　しかし、耳に息を吹き掛けられた時に走った寒気に、忍穂もうっすらと思考のどこかに思っていた。
　『これはどこかを拗らせている場合ではないのではないか！？　逃げなければ！　逃げなければ！！』と。

　「んふっ、ここはやはり、『イケナイ液』まみれにして公衆の面前に晒して辱めるさまをここから眺めるのが素敵ですわんｖ
　と言う訳で、『練乳プッシャー！！』」
　言うが早いか、ミッシェルは何時しか手に持っていた練乳の入ったパッケージを片手で握り潰した。
　ミッシェル・ナイスゲイ。これでも『心は、至上の美女』である。
　それは、向かい合っていた忍穂の顔と服も見事に練乳まみれにした！

　「ウホッｖ　ああん、その『イケナイ液』を全身に浴びつつ、何が起こったのか分からなくて呆然とするカ・オｖ　堪りませんわぁ。舐めちゃいたい」
　「……………！！」

　これが、オカマの深淵に触れた忍穂の限界だった。
　忍穂は練乳を浴びて尚、表情一つ変えず冷静に見えたが、内心ではこれ以上何かあった日には、ルシフェルも堕天使もなくなってしまう。
　しかし、忍穂はその場でうっとりしているダンディズム・オカマ、ミッシェルから逃れることに成功した。
　半分目に涙を溜めながらも、
　「い、いかん！　これは汗だ！　堕天使が涙など流してはならん！
　堕天使が涙などを流しては、それは黒き色をした天界を懐かしむ水晶となってしまう！」
　と、何とか、ナニカをこじらせたところまで回復してから、忍穂は几帳面にもしっかりとホラーハウスへ入る前に外から確認していた非常口から外へと、誰にも追いつけない冷静さを誇示する大股で飛び出していった。

　「いや～ん！　もういなくなってしまったの？　つれないですわねぇんｖ
　いいえ、ゆっくりと次の獲物を探しましょう……そう、ゆっくりと……うふふふふふ」

　──こうして、忍穂は無事に魔の手を逃れた。
　しかし、以降、トラウマの余り彼を含む被害者が名乗りを上げることは無く。
　ミッシェルの行為が判明したのは、モニタリング終了後。
　彼は怖がらせることには成功したものの、ものの見事に次のモニタリングテストからはつまみ出されたのであった……

【　葦原　忍穂・緊急避難口からの逃亡の為、ホラーハウス脱出ならず！　】