【お正月】賑やかで華やかな一時を｜リアクション

【お正月】賑やかで華やかな一時を

　恵御納久隆が運転する車は頻繁な停車を余儀なくされた。渋滞を抜け出す道が見つからない。たまにあっても一方通行の標識に阻まれた。寝子島の案内板はなく、先は長い。
　久隆は厳しい表情で前を向いたまま、重々しい口を開いた。

「渋滞を避けられる道はないか？」
「旦那様、少し待ってくださいね～。急いでスマホで調べてみるから」
　後部座席からのんびりとした声が返ってきた。恵御納理沙はスマートフォンを起動させて画面に地図を表示させる。
「あら～、これは……」
　久隆の表情が更に厳しくなる。
「ここも、あらあら～」
　状況は好転しそうになかった。前の車に合わせてブレーキを踏んだ。合間に腕時計に目を落とす。
「……年始の混雑を甘くみたようだ」
「仕方ないわよ。どこも渋滞で選ぶ道がないのだから、もうすっぱりと諦めてのんびり行きましょうよ～」
　ある意味、正論ではある。しかし、ハンドルを握る久隆の表情は優れない。人差し指が浮き上がって何度も小突いた。
「私が実家に帰らなければ……」
「旦那様、眉間の皺が深くなってるわよ～」
　バックミラーに映る久隆に向かって理沙は自身の眉間をちょんちょんと突っつく。
「そうか。すまない。苛々して運転は危ないな」
「私の運転よりはずっといいわよ。ペーパーだし、久しぶりに乗ったら壁にガリガリ擦って修理代が大変なことに……」
「そんなこともあったな」
　久隆の表情が少し緩む。赤信号を利用して眉間を軽く揉み解す。もう一度、腕時計の時間に目を向けた。
「すまない、理沙……夏朝に電話を掛けて貰えるだろうか」
「その方がいいかもしれないわね。内容はどうする？」
「予定よりも遅れる。寝子島神社には先に行くように、と」
「わかったわ。電話は任せて。旦那様は運転を引き続きよろしくね～！」
　理沙はにこやかな顔でスマートフォンを耳に当てた。バックミラーで目にした久隆は和むような表情を浮かべた。
「……本当に助かる」
　ハンドルを握り直し、久隆は車の運転に集中した。