【エリアＢ：美術館外縁部右－Ｂ１付近】

　巴達が窓を割るより少しばかり時間は遡る。
　左側の外縁部でそれぞれが準備と行動を行う中、反対側となる右側の外縁部にも怪盗達の姿はあった。

「数は少ないですね……これなら、陽動の必要はなさそうです」
　右側にある唯一の窓を覗きながら、日向 透はパートナーである日暮 ねむるにそれを告げる。
「ですね。一人……二人……うん、隠れてるかもしれませんけど、それでも人数は多くなさそうだ」
　ねむるもまた、それを自身の目で確認し透に答える。
　裏手側からの侵入も可能ではあるが、こちらは先ほど覗いた時点で他の怪盗達の姿が見えていた。
　わざわざそこで時間をかけて争う必要があるかと問われれば――透とねむるの答えはＮＯであったのだ。
「好都合ではありますが、何が起こるかはわかりません。用心に越した事はないでしょう」
　透は短くそれだけを口にし、スーツの内ポケットからピッキングツールを取り出す。
「はい。それに、あんまり待たせるわけにもいかないですしね」
　ねむるはその間に周囲と内部の確認を行い、その言葉を口にする。
　――自分達のタッグと協力する者の存在を。
「えぇ。では行きましょうか、日暮さん」
　ねむるに対し、笑顔のままで振り返りながら、透は静かに鍵を開けた窓を静かに開いていく。
　警備員の数が少ないとは言え、油断するわけにはいかない。
　先行する形でねむるが中に入り、透はついでとして手早く窓に掛けられたカーテンを外し、そのまま柱の影に隠れながら美術館内部への侵入を成功させていた。

【エリアＢ：美術館外縁部右－Ｂ１付近２】

　透達が内部に侵入した後、その様子を静かに見守る形で生垣の影に隠れていた二人の怪盗が動き出す。
「ちょっと、急いでよ義一！ せっかく他の人が鍵開けたんだから！」
　――とは言え、こちらの怪盗タッグは少しばかり状況が悪い。
　目の前の女性――最上 るるかに一切視線を合わせず、追分 義一は下を向いたまま窓へと移動していた。
「先に行け、先に！ 後こっち見るな！」
「なんでよー！ 義一がどこに居るかわかんないと動きづらいでしょーが！」
　高校一年とは思えない見事なバストを揺らしながら、幾分頬を膨らませるるかは義一に向き直る。
黒を基調とし、大きく開いた胸元に網タイツまで完備した、若干どころか健全な青少年であればどうあってもまともに見えないその服装で。
「うるせぇ！ それとこれとは話が別――って、前向け、前！」
　少しばかり青ざめながら全力でるるかから目を逸らし、義一は内部で使う幾つかの小石とやや大きめの石を拾いポケットに仕舞う。
　本来であればもう少し拾った上で別な手段により窓を突破するはずであったが、都合よく他の怪盗がその役を担ってくれていたのだ。
「ったくもー、しょうがないなぁ……とにかく急いでよね！」
　るるかにとっては、数ある衣装の中の一つとして選んだ怪盗らしい自慢の服装であるにも関わらず、その感想を口にしない義一に少しばかり不満を抱く。
　だが、そんな不満など知ったことではない。
　若干潔癖なところがある義一にとっては、るるかのこの服装を含めたいわゆるエロネタは極端に苦手な代物なのだから。
「クソ、着てくるなって言っただろうが……」

　――Cat tearを盗む事に成功した場合、人気アニメの舞台のＳ席チケットを報酬として送る――
　これと含め、るるかと組む事が義一が受けたクライアントから出された条件であった。
　事前にるるかから怪盗っぽい服装を着てくるとは言われていたが、嫌な予感と共に絶対ダメだと念を押した結果これである。
　今の所はまだどうにか持ちこたえられる状態ではあるが、若干の不安を抱いたまま、義一はるるかと共に美術館内部へと侵入し、予定の行動へと移っていく。

【エリアＢ：美術館外縁部右－Ｂ１付近→Ｂ１】

　二組のタッグが内部への侵入を果す中、準備を終えた二人の怪盗もこの窓へとたどり着いていた。
　だが、怪盗とは言えその服装は今までの者達とは異なる。
「待ってください、 聖籠さん」
　内部に居る警備員に似せた服を着た八神 修が、少しばかりの違和感と共に、窓を割ろうとしていたパートナー――清掃員の服を着た聖籠 あゆかの行動を止めていた。
「ん～？ どうかした、八神くん」
「いえ、この窓……隙間があります。触ってみてください」
　窓から漏れる光に当たらないよう、目深く被ったつば付きの帽子を少しだけ上げ、あゆかは窓を確認し触れる。
　――修の話す通り、窓には少しばかりの隙間があり、あゆかが動かすだけで簡単に開いていた。
「あらら、ホントだねぇ。先に誰かが入っちゃってるかな～？」
「そうなるでしょうね。でも、俺たちのやることは変わりません」
　自信の塊のような笑顔と共に、その一言を修はあゆかへと返す。
　とはいえ、服を着替えている間に聞こえた裏手側の音で、何かし等のアクシデントが起こっているとは予想している。
　その為に、開けた窓から警備員になるべく気づかれないように、修を先頭にしながら二人は内部へと侵入していた。

　内部は光が煌々と照らされており、夜中とは思えないほどの明るさを保っている。
　その中で、まずは両者共に準備の為に側にあったトイレへと向かい、あゆかは女子トイレの中に入っていた。
「うぅ、電気消したい……」
　出来る限り下を向き、あゆかは廊下で手に入れた消火器を女子トイレ外部に置きながら、静かに扉を閉める。
　だが、そのトイレの中で、あゆかは幾つかのおかしな状況を見つけていた。
「水が出しっぱなしだねぇ……誰か閉め忘れたかな～？」
　蛇口からは勢いよく水が吐き出されており、既に受け口となる洗面台からは水が漏れ始めている。
　――誰かがやったと考えるのが自然。
　なにより、その証拠として既にトイレ内では幾つかの道具が紛失していたのだ。
「八神くんのほうもちゃんとあるかなぁ。ま、とりあえず必要なのだけ持っていこうか～」
　目的である掃除用具を掃除用のバケツに入れ、あゆかは女子トイレには既になかったモップと、確保した道具を伝えるべく、女子トイレを後にする。
　――誰かの陽動の可能性がある蛇口を止めた上で。

【エリアＢ：美術館外縁部右－Ｂ１付近４】

　ほぼ全ての怪盗達が行動を行い、外縁部では騒ぎを起こした二人を除き、怪盗達の姿は見えなくなる。
　その中で、警官姿の二人組みが、先ほどまで怪盗達の侵入口となっていた窓へと到着していた。
「――なるほどなるほど。では、この窓は閉まっていた、という事ですね？」
　ぴっと窓に指さし、キノシタ エツコと名乗った女性警官は、外縁部で行動していた警備員に話しかけていた。
「さっきは中に入る事を拒まれましたけどぉ……これって、ちょっと危ないんじゃないんですかぁ？」
　もう片方の女性警官――こちらもユウキ ミウと事前に名乗り、鍵の閉まっていない窓を開いていく。
　――二人の女性警官が、宝石を盗まれる事を知っていて、その警備に当たらせてもらいたいと話している。
　その報告は全警備員に伝えられ、入口側ではそれを事前に断っていた。
　ならば、なぜその二人がこの場に居たのか？
　――それは、既に警備員達が外縁部を警戒範囲としており、ただ純粋に着替える時間が無かった、と言ったほうが正しかった。
「大丈夫、私たちがしっかり警備しますよー！ ね、ユウキさん」
「えぇ、そうですねぇ。本物の警官が居たほうが、抑止力としては強いと考えますが？」
　警備員に詰め寄る形で、二人は互いにそれを口にする。
　確かに、既に騒ぎは起こり、こうして内部に侵入された可能性のある証拠が目の前に提示されているのだ。
　ならば、警備員が――この二人を中に入れる事を今度は断る理由が無かった。
「はい、いい判断です。じゃあ、行きましょうか」
　警備員から窓と内部を調べる為の許可を貰い、二人は窓から堂々と中に侵入していく。
「いやいや、焦りましたけど結果としては上々ですねー。まさか、窓が開いてるとは思ってませんでしたけど」

　中に入り、警備員の目が外れた時点でエツコ――屋敷野 梢がそれを口にする。
　本来であれば入口での侵入が失敗した時点で偽物の警備員の服に着替えるはずであったが、窓が開いている事に気づいた事、そして自分達の服装を利用した上で、警備員を騙しぬく事に成功出来たことを。

「油断するのは早いよぅ。まだ中に入れただけだからねぇ」

　ミウ――壬生 由貴奈は、慎重に内部を観察し、状況を確認する。
　初手としては梢の語る通り上々、加えて他の怪盗を騙す幾つかの手も既に打っている。
　勝負はここから。
　まずは近くに居た警備員へと声を掛ける為に、二人は姿を隠す事なく堂々と廊下を進んでいく。

Round1 End

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▼次ラウンド開始地点▼　【エリアＡ】桜崎 巴　後木 真央
　【Ａ１】御剣 刀　小山内 海
　【Ａ２】志波 武道　神薙 焔　響 タルト 骨削 瓢
　【Ｂ１】日向 透　日暮 ねむる　最上 るるか　追分 義一　八神 修　聖籠 あゆか　屋敷野 梢　壬生 由貴奈

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Next Round【AM1:10】