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―― make a start ――

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Round1【AM1:00】

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　時刻は深夜。
　街灯のか細い光と月明かりだけが島を照らす静かなこの時間に、森繁美術館は暗闇の中で孤立するように電気の光と人々の喧騒に満たされていた。

　【チェシャ猫がチェリーを咥えているイラスト付きカード】
　【迷彩柄に眼鏡のイラスト付きカード】
　【ぽっちゃり猫が木刀を持ったイラスト付きカード】
　【スケッチブックにドクロが描かれたイラスト付きカード】
　【眠そうなドクロと、その上で眠る猫が描かれたイラスト付きカード】
　【可愛い小悪魔が白のシルクハットを被ったイラスト付きカード】
　【飴細工の眼鏡を掛けた猫のイラスト付きカード】
　【蝶が修理中のラジオに止まっているイラスト付きカード】

　事前に美術館に送られたこれら８枚のカードは、今宵この場所に忍び込み、宝石を盗み出す事を告げた怪盗達からの予告状。
　森繁美術館は来るであろう怪盗達に備え、深夜にも関わらず警備員達による厳戒態勢が敷かれる事となっていた。

【エリアＡ：美術館外縁部左】

　美術館内部は警備員の手により、視界を確保する為に館内全ての電気がつけられている。
　だがその光が届かない美術館外縁では、警備員達を出し抜き、既に怪盗達が動き始めていた。

「おやおや、精が出るこって」
　夜の闇に紛れるように、暗色を基調としたタキシードに身を包んだ骨削 瓢は、草陰に隠れながら他の怪盗達へと目を向ける。
　どの怪盗も目立たないように動いている為か、誰がどこに居るのかは視認し辛いが、それでも瓢とパートナー以外の者達が存在している事は確認出来ていた。
『わたしたちはあのひとたちのあとに』

　瓢とは対照的に、パートナーである小山内 海は寝子島高校の制服に近い服装に身を包みここに来ていた。
　普段持ち歩いているスケッチブックは今回持ってきておらず、海は協力する怪盗と瓢にだけ事前に教えた簡単な手話でそれを伝える。

「当然よぃ、小山内はん。わざわざあっし等が危険を晒す道理なんざ欠片も無いのさぁ」

　からりと嫌味な笑顔を瓢は作り、他の怪盗達の動きを見る。
　――侵入時、そして侵入後の内部での行動も含めて、危険を請け負うべきは他の怪盗であり、それを助ける為にわざわざ手を貸すつもりなど瓢には初めから微塵も無いのだから。
『これを』
　海は手のひらサイズの小さな缶のような物を瓢に差し出す。
「確かに。じゃ、後は作戦通りといきましょか」
　瓢はそれを受け取り、海は返答の為の頷きを返す。
　海は入口側にある窓付近、瓢は宝石のある部屋の前の窓付近へと、分かれる形で静かに姿を隠しながら歩き出していた。

【エリアＡ：美術館外縁部左－Ｃ３付近】

　美術館の影に隠れながら、怪盗チェリーと後木 真央、そして志波 武道はこちら側に居る怪盗達から離れる形で裏手となる窓に到着していた。
「すごいのだ、巴ちゃん怪盗っぽいのだ！」
「ＨＡＨＡＨＡ、服装は一本取られちゃったかなー、俺！」
　 真央は目を輝かせながら、武道はからりと笑いながら普段とはまったく異なるチェリー――桜崎 巴の服装を見る。
　――たなびかせるは黒色のマント。
　それにあわせた黒のマスクで口元を隠し、服装もしっかりと黒のレオタードに身を包んだ黒一色の服装を。
「外には光も届いちゃいないからね。カモフラージュにゃぴったりってなもんさ」
　ふふんと鼻を鳴らす事で真央に答え、巴は外壁に張り付きながら窓より内部を覗く。

「数は――五人ってとこかね。流石に裏口にも数を揃えて来てるってわけかい」

　人数を数える毎に自分の指を折り曲げながら、巴は確認出来た人数を真央と武道に伝える為に口にする。
　三人がここに居る理由、それは自分達のパートナーと協力者がより確実に内部に入る為の陽動を行う為であったのだ。
「でも、こっちにとっては好都合だな。少なくとも、それだけ引き付けられるって訳だし」

「武道ちゃんセンパイの言うとおりなのだ！ それと、あっちからは誰も来てないのだ」
　真央がこちらとは反対側となる右側の外縁部を指さしながら巴と武道に伝える。
　こちらの確認はあくまでここを使う可能性のある怪盗に対し、三人がその邪魔をしない為の物である。
　――侵入までは正々堂々に。
　なにより三人共に本来のパートナーの行動を成功させる為にここに居るのだから。
「オーライ。なら、そろそろ頃合だね。いくよ二人共！」
「ラジャーなのだ！」
「怪盗ブドー、いっきまぁす！」
　三人が手に持つのは、手ごろなサイズの投げやすい石ころ。
　武道はそれをいくつかポケットにねじ込み、大きく振りかぶりながら、三人は全力で窓へと投げつけていく。

【エリアＡ：美術館外縁部左－Ａ２付近】

　美術館裏手側から、ガラスを割れる音が外縁部全体に聞こえる程に大きく鳴り響く。
　その音を合図に、Cat weterが納められている第二展示室前の廊下に繋がる窓へ、二つの影が移動する。
「……いい感じに動いてる。陽動は上手くいったようね」

　サバゲーで使用するＢＤＵ（戦闘服）に似た服装でこの場に臨んでいる神薙 焔が、窓から内部を見る。
　裏手側の騒ぎは陽動としての効果を発揮し、数名の警備員が既に外縁に移動しており、その応援としてこの廊下に居た警備員も数名が移動していた。

「じゃ、次は僕達の番だね」

　ぴょっこりと魔法少女に似た服装とチェシャ猫の尻尾のアクセサリー、そして頭につけた猫耳と共に、響 タルトが焔の確認後、先に大きめの石と幾つかの小石を拾った上で今回持ち込んだ唯一の道具をポケットから取り出す。
　――その手に持たれているのは、あらゆる錠前を開錠する、怪盗の御用達であるピッキングツールであった。
「慎重にね。成功しているって言っても、まだ数は残ってるわ」
　状況は二人にとって優位に働いている。
　その為に焔は手元が狂わないように安心を与える為、タルトに軽く笑顔を見せながらその作業を見守る。
「ここをこうして……んん……よし、出来た！」
　カチリと小さな音を立て、窓の鍵が開く。
　――注意は未だ裏手側に向いており、この音で焔達が居る方向に視線を向ける警備員は居ない。
「Ｇuｔ（よし）！ 後は志波くんが――」
　焔のパートナーである武道は、もう少しでこちらに合流する手はずとなっている。
　その為に、二人の視線が裏手に繋がる道へと向かい――そちらから走ってくる武道の姿を捉えていた。
「二人が抑えてる、早く中に！」
　手振りを加えながら、武道は二人に伝わるように出来る限り声を小さくし、二人にこれを伝える。
　陽動の継続を行うのは、タルトのパートナーである巴と別のパートナーが居る真央の二人のみ。
　駆けつけた武道が合流し、三人はそのまま気づかれないように静かに美術館内部への侵入を果していた。

　――それらの行動を見届け、最後に窓辺に隠れる形で中へと侵入した瓢の姿に気づく事なく。

【エリアＡ：美術館外縁部左－Ａ１付近】

　真央と巴が陽動の為に上げている高笑いや大きな声を聞きながら、入口側に近い窓辺でも一つの影が動く。
「……後木は上手くやってくれたか」
　ガサリと小さく音を立て、生垣の影に隠れていた御剣 刀もこの騒ぎに乗じて行動を始める。
　外部側の陽動の全てを真央に任せ、内部での宝石確保は刀が行う。
　それが、この怪盗タッグの作戦であった。
「俺も急がないとならないな」
　少しばかり膨らんでいるポケットには、刀が持つ怪盗道具が仕舞われている。
　これらを使い警備員を、そして他の怪盗を出し抜く為に、刀は近くにあった石を使い裏手とは別に出来る限り静かに窓を割る。
　――ピッキングツールのような物とは違い、こちらはどうしても音が出る。
　だが、こちらの廊下に居た警備員は一人であり、この警備員もまた裏手で起こった騒ぎに視線が向いてしまっていた。
「……大丈夫、か？ これなら――」
　警備員の視線がこちらに向いていない事を確認し、刀は割れた窓から中に手を入れ、そのまま鍵を開く。
　窓を開く時も静かに、刀は素早く内部へと侵入し、死角となる壁の柱へと移動を成功させていた。

　――そんな刀の姿を、海はじっと見ていた。
　瓢と侵入する位置を違えているのは、先に話し合った作戦の為に。
　外縁部では、騒ぎが大きくなる中で警備員が持つマグライトの光が幾つか現れ始めている。
　急ぐ必要はあるが、それでも今回は怪盗として敵である刀に気づかれないよう、海は出来る限り慎重に窓へ近寄り、カーテンの影に隠れる形で内部への侵入を成功させていた。

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【警戒レベル変動アリ】
エリアＡ・Ｂ：０→１
Ａ２：３→２
Ｃ３：エリアＡ・Ｂに一部移動、Ａ２より増援加算（レベル２継続）

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