ハロウィン剣劇｜リアクション

ハロウィン剣劇

　サキリ・デイジーカッターは瞬間的に足を止めた。真新しい書店のガラス壁の向こうに目をやった。平積みされた書籍の合間から手書きのポップ広告が見える。
「刃物特集か」
　一見の価値があると瞬時に判断。扉を開けて店内に踏み込んだ。途端に笑みが零れる。
　サキリは白い空間を快く受け入れた。現れたノアに、久しぶりだね、と気さくに語り掛ける。
　今回の主旨を聞いて諸手を挙げて喜んだ。
「刃物の性能実験は僕に任せてよ。まずは刃物を見させて貰うね」
　ノアが出現させた四振りの刀身をじっくり見る。柄の握り具合や振った時の感触を身体に覚えさせた。
「一つを選ぶのは難しいね。それぞれに特徴があってどれも試してみたい。ダメかな」
「願っても無い申し出です。是非、お試しください」
「ありがとう。良い刃物を手にすると気分が高揚するね」
　四振りの刀を手にしたサキリは戦いに特化した闘技場を選んだ。

　瞬く間に円形の闘技場にサキリは立った。物怖じすることなく周囲を一瞥した。
「前の炎熱世界と違って、悪くない環境だ」
　自身の変化にも気付く。動き易い衣服となっていた。腰の左右には専用のホルダーが取り付けられ、均等に分けられた。
「……あれがハロウィン仕様の敵、いや、鬼か」
　カボチャの被り物に収まらなかった二本の角と虎柄のパンツに特徴があった。扱う武器も金棒で疑う余地もない。
　――切れ味のテイスティングといこうか。
　腰に下げられた円形の刀を手に取る。
「……少し近いか」
　巨体を揺らして敵が迫る。狙い澄ました一撃がサキリの頭部を襲う。
　――イメージで空間を切り裂く。
　瞬間、『斬空赤刃』のろっこんが発動。五十メートル以内の瞬間移動を可能にした。進化能力１は使わず、純粋な切れ味を試す目的で刀を放つ。回転する刃は相手の手首を切り裂いて戻ってきた。
「出血が少ないな。それと意外に速い」
　敵は地響きを立てて走り寄る。サキリとの距離は一メートルもない。丸太のような脚で蹴り上げた。しかし、空に舞ったのは抉られた土だけであった。
　ろっこんで瞬間移動を果たしたサキリは次に敵の足首を狙う。円形の刀を投げて太腿の一部に傷を負わせた。
　すぐさま振り向いた敵は雄叫びを上げて走ってくる。金棒を滅茶苦茶に振り回し、周囲の足場を抉り取った。
　サキリは消えた。ろっこんの瞬間移動で敵の背後に出現した。厚みのある刃を振り上げてアキレス腱に斜めに斬り込んだ。敵の咆哮を聞いて瞬時に離脱。壁際に現れて状態を窺う。
「動きが遅くなったな」
　サキリは二刀流に切り替えた。頑強な刀を正眼に構え、汎用性の高い刀は下方にだらりと下げた。
　瞬間移動で瞬時に間合いを詰める。二刀による乱舞が始まった。敵は連続の斬撃に怯みながらも金棒を振り下ろす。頑強な刀を突き上げて軌道をずらし、別の刀で下半身への苛烈な攻撃を繰り出す。
　敵の膝が折れた。待っていたかのようにサキリは二刀を同時に突き出した。両肩を貫き、戦力が大幅に削られた。
「良い戦いだったよ」
　サキリは最後の刀を抜いた。細い刀身は凄まじい殺傷力を誇る。大きく振り被り、全力の袈裟切りを見舞う。
　敵の身体がずれた。瞬間、世界は白に埋め尽くされた。
　白いタキシードを着たノアが拍手で迎える。
「お見事でした」
「ノアさん、どれも良い業物だったよ。中でも円形の刃物は奇襲に使えるね。近接攻撃が得意な相手には有効だ。もう少し殺傷力が欲しいけど、贅沢な注文だね」
「的確な指摘をありがとうございます」
　ノアは感謝を伝える。
「二刀流の時に使った刃物の組み合わせが良かった。重量に難があるけど防御に使える。一撃の破壊力も十分で敵の動きを鈍らせることができた。連撃に適した刃物は手数が魅力だね。防御の脆い相手なら一刀で押し切れると思う」
「良いデータになります」
「最後に使った刃物は一回の斬撃で戦況を引っ繰り返せる。使いどころを間違えるとこちらの生死に関わる。そんなところかな」
　サキリは扉に向かって歩き出す。押し開く前に振り返る。
「楽しい時間をありがとう」
　朗らかな顔で出ていった。

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