ハロウィン剣劇｜リアクション

ハロウィン剣劇

　太陽が中天に差し掛かる頃、ティオレ・ユリウェイスは久しぶりに訪れた寝子島で買い物に追われていた。しばらく滞在する予定の為、肩に引っ掛けた袋は、はち切れんばかりに膨らんだ。
「あとは日用品ね」
　全品百円を謳う店に軽やかに入る。途端に表情が険しくなった。顔を僅かに振ると耳に付けた複数のピアスが涼しげな音を立てた。
「……また運気が衰えてきたみたいね」
　白い空間に溜息交じりの声が漏れた。

　盗賊に相応しい身軽な姿となり、ティオレは敵と間隔を空けて向き合う。瞬間の視線で周囲の状況を把握する。
　――星幽塔の闘技場に似ているわ。円形で高い壁に囲まれ、逃げ道はないと。案内役の説明通りのようね。
　足を踏み鳴らす。
　――足場としては上々。問題は敵だけね。
　青い目が刃物ように細くなる。敵の特徴を頭の中に叩き込む。
　――目測による身長差は四十センチ以上。首筋への直接攻撃は難しいわ。珍妙な被り物は視界を狭めると思うから横手の攻撃が有効ね。武器の金棒は威力がありそうだけど、私の速度で対抗できるはず。
　軽く頷いた瞬間、敵が突進してきた。金棒を振り上げ、ティオレに向かって打ち下ろす。
「見えているわ」
　一笑したティオレは風に飛ばされる木の葉のように軽々と躱した。金棒の先端が地面に減り込み、土埃を上げた。咄嗟に腕で目を庇い、距離を空ける。
「一撃の威力はあるようね」
　敵の真横に走り込み、ティオレは刀を投げ付ける。円形の刃は回転しながら敵の上腕を切り裂いた。そのまま弧を描いて戻ってきたところを掴み取り、その場で様子を窺う。
　敵は一刀の傷を気にすることなく、再びの突進を開始した。走りながら真横に腕を引いて金棒を水平に振るう。ティオレは上体を低くして躱し、逆にカウンターを狙って飛び込んだ。
　敵は反射に近い動きで拳を突き出す。ティオレは地面を蹴って真横に跳んだ。転がりながら立ち上がり、即座に離れる。
「やるわね」
　無表情で走る。敵の死角に回り込んで刀を投げ付けた。対応できず、肩口に新たな傷が増えた。
　しかし、敵は怯まない。金棒の威力を増して反撃に出る。ティオレは冷静な目で一撃を躱し、一定の距離を保つ。
　――逃げの一手で遣り過ごすことはできないわ。敵の体力は私の予想を超えている。
　思考の間隙を突いて金棒が頭上に迫る。ティオレは後方に跳んだ。着地と同時に更に跳んで引き離し、闘技場の壁際を疾走した。
　遠距離攻撃に特化して刀を投げる。軌道に慣れてきたのか。敵は金棒を盾にして弾いた。
　ティオレは飛来する矢のような速さで地面に刺さった刀を引き抜き、速度を落とさずに離れた。
　一定の距離に達すると放つ。回転する刃を敵は簡単に叩き落した。
　再び回収に向かう。敵は動きを止めた。金棒を振り上げて待ち構える。ティオレは上体を左右に揺らしながら突っ込む。釣られた金棒が同調した。
　右を狙った金棒の攻撃を左に跳んで避ける。ティオレは刀を手にすると半身の体勢になり、高い壁を目にした。敵は大きく踏み込んで追撃の一撃を振り下ろす。
　ティオレは瞬間的に跳んだ。直後に敵の上体がぐらりと右に揺れ動く。大木が倒れるようにゆっくりと傾いだ。
　瞬間、土埃が舞い上がる。横向きに倒れた敵の左胸には刀が深々と刺さっていた。敵の突進と自身の速さを活かしたカウンターを見事に決めたのだ。
「これが単調な攻撃の意味よ」
　盗賊らしい酷薄な笑みを浮かべた。

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