ハロウィン剣劇｜リアクション

ハロウィン剣劇

「あれ？　なに、ここ？」
　白真白は真っ白な空間に驚きを隠せない。後ろを振り返ると入ってきたドアはあった。ワンピースの生地を押し上げる、ふくよかな胸に手を当ててほっとした表情を浮かべる。瞬く間に灰色の左目が鋭くなり、白いツインテールを左右に振るようにして周囲を見回す。
「白すぎてよくわからないんだけど、服はどこ？」
「過去創造館に、ようこそいらっしゃいました」
　横手からの声に真白は即座に反応した。白いタキシードを着た人物、ノアがにこやかな顔で立っている。
「そこ、いなかったよね。過去なんとかって言ってたから服は売ってない？」
「お客様のおっしゃる通りで服飾関係の店ではございません。今回は過去に関連した話でもありません。まずはこちらをご覧ください」
「こちらって、なにも、えっ！？」
　ノアが手を示したところに四振りの刀が忽然と現れた。真白は形状の違いに興味を示し、しゃがんで手に取ってみた。
「これ、すっごく軽いね。しかも細くて鋭い！」
「武器職人の村清様の話によりますと、殺傷力は高いのですが脆さも併せ持っているそうです。今回はお客様に武器の性能実験のご協力をお願いしております。敵はこちらでご用意いたします。館が創造するものは五感に作用しますのでご注意ください」
「おもしろそうじゃん！　この刀で敵をバッサバッサだね」
「戦うフィールドは三種類ございます。端的に説明しますと『森、湿地帯、闘技場』となっております」
　真白は鞘から抜いた刀を振り回しながら、森で、と迷わずに答えた。
　手に馴染んだ刀を鞘に納めると笑顔になった。
「森って不意打ちに最高だよね」
「わかりました。ではフィールドをご用意いたします」
　ノアは恭しく頭を下げる。

「よーし、張り切ってフィールドにレッツゴー、ってもう来てる！？」
　白い空間は薄暗い森へと瞬時に切り替わる。服装にまで影響を与えていた。フリル付きのワンピースはバニースーツに取って代わられた。ツインテールは同じでウサギの耳のようだった。
「まあ、動き易いけどね」
　枯れ葉を踏み締めて適当に進む。深い森の匂いを胸いっぱいに吸い込み、徐々に気分が上向いてゆく。
「今日の私は一撃必殺のヴォーパルバニー！」
　それらしく木の幹に身を潜める。足音を忍ばせて次の幹に素早く移動した。繰り返しながら敵の発見に努めた。
　枯れ枝を折るような音が聞こえる。一回にとどまらず、断続的に続いた。
　真白は一本の木を注視した。駆け寄って背を付けると回り込むように動き出す。
　足が止まった。にんまりと笑みを浮かべる。
　半裸の巨人が金棒を手に歩いていた。真白の存在に全く気付いていない。百二十センチに満たない身長が幸いした。カボチャの被り物のせいで視野が狭いことも考えられる。
　真白は鞘に入った刀を見詰める。刀身に力を注ぎ込むイメージで『鋼の如く』のろっこんを発動させた。強度が増した状態で素早く飛び出す。
　多少の音は覚悟して敵の背後に迫る。振り向かれる前に鞘の中を走らせて抜刀。横一線の一撃は敵の両脚を切り裂いた。くぐもった声を上げた敵が四つん這いの姿となった。
　真白は頭部に向かって走る。高さの不利が解消したところで易々と首を斬り落とした。苦鳴を上げる間はなく、敵は瞬時に消え去った。
「私のろっこんを使えばこの通り！」
　刀身は折れていなかった。刃零れの痕跡も見つけられない。
　得意気に刀を振って鞘に納める。
「あ、でもこれって刀の性能実験なんだよね……ろっこんを使ってもよかったのかな？」
　渋い顔は数秒で、すぐに満面の笑みとなった。
　真白は大股で森の中をゆく。
「敵はどこかな！　どんどん狩るよー！」
　刀を振り回して陽気に獲物を求めた。

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