ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！｜リアクション

ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！

★海を泳ぐ列車（３）

　ぱたぱたぱたと足音が二重に響き、２人の少女が勢い良くとび込んできたのはその時だ。
「マガレちゃん、あの子達はどこ！？　見失った！？」
「大丈夫です、タルトさん。落ち着いて探しましょう」
　こちらへ向かったのは明白ですから、と、青の眼差しを巡らせるはマーガレット・ライカー。
　そ、そうだね！　と大きく頷いて、響タルトも辺りに視線を走らせる。
　そして、その双眸がはたと一点を捉えた次の瞬間には、
「見つけた！！」
　と、タルトは押し殺した、けれど興奮の滲む声を上げ、マーガレットの手を引いていた。
　可憐なる２人の乙女が探していたのは、窓の向こうの２匹の魚。
　淡い水色の魚が、桃色の魚をリードするように泳いでいる。
　桃色の魚は、ほんの僅か戸惑いを滲ませながらも、水色の魚の後ろに確かに続いていた。
「水色くん、遂に、桃色くんを放っておけなくなったんだね……！」
　うっとりとしたタルトの言葉に、マーガレットがしとやかに頷く。
「愛ですね。桃色の彼も、躊躇いこそ見せていますが、満更でもないのではないでしょうか」
「だよねだよね！　ちゃんとついていってるもん！　水色くんを、信じたいんだよね！」
「ぐいぐい引っ張ってくれるタイプに弱いのもあるのかもしれません」
「それだよね！　『こっち、来なよ』『っ、おい、何なんだよいきなり……！』みたいな？」
「擬人化をするならば、確実に手を繋いでいると思いますが、どうでしょうか？」
「最高だよ！　同じ色の仲間達の目も気にせず、桃色くんの腕を掴む水色くん……」
「赤らむ頬が目に浮かぶようですね」
「そんな桃色くんの様子に、水色くんはこそっと口の端を上げる的な！　ね！」
「捗りますね」
　言って、マーガレットが再び頷いた、その刹那。

「こ、これは……！」
　タルトの茶色の双眸が、明るく輝いた。
　水色の魚が、桃色の魚に小さく口づけを零したのだ。
　桃色の魚も、騒ぐことなく、その愛らしいキスを静かに受け入れた。
「――２匹の愛は、成就したんですね」
　そっと窓に手を添えたマーガレットの口元には、穏やかな笑みが浮かんでいる。
　タルトも仲睦まじい２匹の姿に表情を華やがせて、
「うんうん、まごうことなきハッピーエンドだよ、これは」
　と、真剣な声で同意を示した。
「いい感じの薄い本ができちゃいそう♪」
「新作、楽しみにしていますね」
　ニコニコと言葉を交わし合うタルトとマーガレット。
　窓を隔てた向こう側では、２匹の魚が、幸せそうにくるくると踊っていた。

「ふふ、やっぱり可愛いですね」
　もきゅもきゅ言っているアザラシをなでなでしながら、愛猫萌々子は目元を蕩けさせる。
　その様子を目に、ロングシートに腰を下ろした三宅葉月は、
「何だか、微笑ましい光景ね」
　と呟いたが、直後、
「……あら？　あなたも、もっと撫でてほしいの？」
　自分に甘えてくるイルカにせがまれて、その顎にそっと触れた。
「なんというか……キリがなさそうだわ」
「でも、滅多にできない経験だと思います。存分に楽しみたいですね♪」
　応じて、葉月の隣に座る吉住志桜里は、膝の上に乗せた子シロクマをぎゅっと抱き締めた。

　列車内を、光の波――輝く小魚の群れが泳ぐ。
　その澄んだ煌めきは、彼らの旅路を祝福するように、一行へと降り注いでいた。