ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！｜リアクション

ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！

★しゅっぱつしんこー！

　『寝子島発　→　ふしぎ行』。

　――手にした切符に導かれ、乗り込んだのは真夜中発の蒸気機関車。
　黒鉄色の機関車が、たんぽぽ色に連なる寝台車両を引いて、線路のない天への道を力強くかけてゆく。
　一体いつの間に乗り込んだのだろうか、車内には少なくない数の乗客が乗車していた。
　甲斐甲斐しく行ったり来たりする車掌は藍色の制服に身を包んだ二足歩行の喋る『ねこ』。
「切符を拝見」
　なんて言っているうち、列車はぐんぐん上昇し、ついに薄青色した大気圏を抜けた。
　今や窓の外を彩るのは、地上ではついぞお目にかかれないような極上の星々の煌めき。
　乗客たちは思い思いの席に掛け、窓枠に張り付くようにして眩い星々に見入っている。

　さて、列車の最後尾は豪奢な内装の展望車となっていた。
　寝台車や客車より大きな窓からは、船外活動中の宇宙飛行士しか味わえないような雄大な光景が楽しめる。
　その大きな窓におでこを張り付けているのはステラ・ラ・トルレと、トワ・E・ライトフェロゥ。

「すっごいの！　みて、トワ！　お星様に手が届きそう」
「fantastic！　宇宙なーのー！」

　赤と青お揃いのドレスから伸びた脚を、ステラとトワは互い違いにパタパタパタ。
　野を越え山を越え海も越え、寝子島まで辿り着いた……なんて噂もあるくらい方向音痴なお嬢様のトワでも、空飛ぶ「ふしぎ行」の汽車に乗ってしまうのははじめてだ。
　わくわくと海色の瞳に星の瞬きを映すトワを見て、ステラも金色の瞳をぱちくり、金から群青色へ変わる長い髪をふわり跳ねさせて、通りかかった車内販売――制服を着た二本足で立つねこのアテンダントさんがカートを押している――に向かって人差し指を、ぴっと立てる。

「生チューひとつ！」
「グレープフルーツスカッシュひとつ！」

　黄色い泡立つ飲み物を手におしゃべりし続けるトワとステラの向かいの席では、トワのお目付け役である夜海霧楓がハンチング帽を目元まで深々とおろし、腕組みをして目を閉じていた。
　寝ているわけではない。いざというときにトワを守ることができるよう、体力を温存しているのだ。
（『ふしぎ行』ってくらいだ、戦闘の一つや二つ、覚悟しといて損はねえ）
　そう警戒する一方で、楽しそうにしているトワの姿に、どこか安堵を感じる自分もいる。
（友だち、か）
　楓は、ときに冒険を共にするふたりの少年の方に意識を向けた。
　
「一枚引くよ」
「好きな方を取っていいよ、なぎささん」
「ユチェン君、そう言いつつ、あからさまに一枚飛び出してるケド」
　音海なぎさは笑いながら、申雨晨（ユチェン）とトランプに興じている。
　ユチェンの手持ちは、一枚がジョーカー、一枚がハートのジャック。
　いわゆるババ抜きである。
　なぎさはしばし思案し、飛び出していない方のカードに指をかけた。
「んー、ユチェン君の素直さを、信じる！」
　なぎさが引いたカードはハートのジャック。
　自分が持っていたダイヤのジャックとペアにして場に出す。
「うーん悔しい！　また負けた！」
　ユチェンは自分の手元に残ったジョーカーを表にして子犬みたいに項垂れているが、この素直さを大切にして欲しいな、とも思うなぎさである。

「蒼き天蓋を飛ぶ魔列車か。心惹かれるな」
　折河樹は漆黒の前髪をかき上げた。
　中学二年生。彼の口からは、華美に装飾されたセリフが滑らかに紡がれていく。
　幼馴染の観月光は慣れたもので、このくらいの厨二セリフでは動じないメンタルだ。
「ほんと！　すっごくキレイだね！　あ、みて樹。虹のトンネルだよ！」
「虹、だと。時空間移送経路（ワープロード）というわけか？　む、閃光（ひかり）が――！」
　列車はまっすぐ、まばゆい光の中へと飛び込んでいく。
　樹と光は、眩さに一瞬目を閉じる。

　辿り着いたところは――！

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