御剣 刀と弘明寺 能美子が行き会ったのは、幸か不幸か親しい友人であった。ブリジット・アーチャーと新井 すばるの二人である。だがどうも、どちらもお世辞にもにこやかな表情とはいえない。文字抜け騒動で疲れているのかと思い、声をかけようとした刀はぎくりと立ち止まった。
「え! 英語……」
さすがアメリカ生まれ、金髪碧眼は伊達ではない。ブリジットはすばるに英語で話し続けていたのである。話題はやはり、消えてしまった文字に関することらしく、彼女の手には一冊の本があった。文字の欠けたページを示したブリジットの口からは、なめらかな英語のスピーチが流れ出る。
「Take a look at this! Subaru」(すばる! これを見てよ)
「HAHAHA! あはは……は……」
「Do you have any idea what the hell is going on with……」(いったい全体、何が起こっているのかわかるかしら……)
言語は違えど、ブリジットはあくまでいつもの調子でしゃべっているだけだ。すばるだって、ブリジットに英語をたびたび教えてもらっていて、彼女の英語を多少聞きなれているはずだった。だがしかし、今は事情が違う。言葉が消える前代未聞の事件にブリジットは早口になっていたし、すばるはブリジットの言うことだからなんとか理解したいと努力してはいても、ハイスピードで流れる英語はさすがに聞き取れない。
「Hey! Do you hear me?」(ねえちょっと! 聞いてるんでしょうね?)
すばるは口をぱくぱくさせるが言葉が出てこない。
「Are you with me?」(私の言っていること、わかってる?)