ねこの消えた日｜リアクション

ねこの消えた日

「ああ、明日帰る。ミルクたちを家に落ち着かせてやったら学校にも出るつもりだ。ああ、うん……ミユもお疲れさまだったな。サティが見つかってよかったよ。それじゃ」
　八神修は親友の霧生深雪と、その日最後の言葉を交わした。電話ごしの友の言葉は明るく、島にフツウが取り戻されたことがわかった。しかし修の心はどこか晴れない。すべては人間たちの力の及ぶ範囲の外で自然に起こり、勝手に解決してしまった。
「本当に、まるでバベルの塔のようだった……」
手に携えた旧約聖書を開く。もっとも古き書『創世記』にある聖句に目を通す。
『エホバくだりて、かの人々の建つる邑と塔とを見給えり
エホバ言い給いけるは、視よ、民は一つにしてみな一つの言語を用う、今、既にこれを為し始めたり。然ればすべてその為さんとはかることはとどめ得られざるべし。
いざ我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、互に言語を通ずることを得ざらしめんと。
エホバついに彼らをかしこより全地の表面に散した給いければ、彼ら邑を建つることをやめたり。
これゆえにその名はバベル、混乱と呼ばる』

ため息が出るばかりだ。たった二つの文字でさえ、島の人々のコミュニケーションは不全となりかけた。もしこれがそれ以上であったなら。神の力が今回以上に大きく働き、世界のルールを書き換えてしまう事態が起きたならどうなるのだろう？　そのとき、自分には何ができるだろう？　

　寝子島神社では桃原空音が名を取り戻し、後木真央は思う存分『ねこ』と言えるフツウに喜び、手を取り合って喜んでいた。
「おネコさま！　ねこしまじんじゃー！　戻ってきたのだ！」
「真央ちゃん、よかったね！　あたしも『そらね』に戻れたよー！」
飛び上がらんばかりに歓喜する一年生二人のそばでは、大天使天吏が静かに感謝を捧げていた。
「……戻って来てくれてありがとう。お帰りなさい」
文字たちには彼女の声が聞こえただろうか。天吏のつぶやきは、金の髪をなびかせる夕の風に乗って消えていった。

　こうして島には、元通りすべての文字が帰ってきて、今までどおりの日常が戻った。たった一日、日の出ている間だけ役目を離れて旅をした『ね』と『こ』がどんな体験をし、どのようにしてただの文字に戻ったのか、それは誰も知らない。

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あとがき

担当マスター：清水るね
ファンレターはマスターページから！

お疲れさまでした。無事『ね』と『こ』は戻ってきたようです。直接問題解決に関わることができないシナリオでしたので、もやっとした気持ちになってしまわれる方もいたことかと思います。ですが、どの方のアクションも、手の届かない状況でも精一杯努力されたり、持ち前の性格を生かしてじょうずなロールプレイをされているものばかりで、さすがと思わずにはいられませんでした。ちょっとだけ不自由な一日を、楽しんでいただけたなら幸いです。

ご意見、ご感想などはコメントページにお気軽にお寄せください。
それでは、また次のシナリオにてお会いいたしましょう。

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