＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）｜リアクション

＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）

●道行と北極

　小さな黒い機械――衛星通信用の――での通信を終えた武道を横目に、防寒具を着込んでもスマートな出で立ちの朝鳥さゆるは、今までの道行を振り返る。

　はじめは……寝子島で落神伝説の調査で落神神社の中の小さな祠から、ご神体が盗まれていることがわかったことがきっかけだった。そのご神体は寝子暦ゼロ年に落ちてきた落神の像で、胎内に宝の地図が埋まっているという伝承があるということだった。

　寝子高を卒業し、オカルト調査会社R&R Agencyのボスに就任したばかりだった坂内梨香は、『零神とは何であったのかの謎解きと【零神の宝】探しプロジェクト』を、自分がボスになって初の大仕事と位置付けたらしい。R&R Agencyのエージェントや外部の協力者を落神神社に集めて、零神像の入手するための調査を依頼した。
　ところが、集まったメンバーは突然、異国の街――中国は紅燈火街（レッドランタン・タウン）に転移してしまった。そこで遭遇したのは、神魂事件と思しき事件。

　事件は解決したものの、零神像は別の場所に移されてしまったことを知った一行は、事件を通して知り合った申雨晨（シェン・ユチェン）を朋として、不死信仰の村・青の幽玄に向かった。
　そこで知ったのは『絶神（たちがみ）』の存在と、絶神のもれいびであったクロードの存在。
　さらには、かつて、零神と絶神は戦いを繰り広げたという歴史。
　クロードとの戦いの末、女性の姿をした零神像の半身を取り戻した一行は、その断面に地図――それも、鈴島の――が描かれているのを見つける。

　寝子島に戻ってきた一行は、死んだと思っていたクロードが寝子島に現れて、なぜか四十九院鸞先生を連れ去ったことを知った。ふたりを追って、千年茨の遺跡へ向かい、そこで多くのことを知った。
　四十九院鸞先生は炎に飛び込んだクローネが再生した姿で、自分だという実感はないもののクローネの頃の記憶も、おぼろげながら持つこと。
　クローネは絶神に従う神だったこと。
　絶神は零神たちによって月に封じられたこと――。

「なんとかクロードを倒して、零神像のもう半身も取り戻し、完全な形で落神神社に祀りなおしたのも束の間、月から悪魔が押し寄せてきたんだったわ」
　絶神は現在、月に封印されていて出られないようだが、どうやらその封印にほんの僅かな綻びが生じているようだ。その綻びを縫って、悪魔や魔物など危険な連中を送り込むことができるまでに危険な状態になっているらしい。

　今回の調査は、あの『月に喚ばれし悪魔の群』襲撃事件後、白猫のらっかみ・ミラから「北極がいま《時の特異点》になっている」と依頼を受けてのことだった。

「中国、寝子島と来て、今度は北極」
　なんの感慨も含まない声でさゆるは呟く。R&Rに成り行きで参加して、流されるままにここへ来た。虚無感で感性が摩耗し、心は今いる北極の気温――氷点――程度には凍てついている。

「全ては『緩やかな破滅に至る道程の暇つぶし』に過ぎないわ」

　その虚ろな視線の先には、坂内梨香と白猫ミラの姿がある。

「みんな準備できた？　寒さ対策は大丈夫そうね。じゃあ、今回の任務を再度確認するわ。
　今回の私たちのミッションは、大きく二つ。
　北極の湖とそこに横たわる女性らしきものを調査することと、ミラ及び四十九院鸞先生の護衛よ。
　ミラによると、この北極は今、『時の特異点』になっているそう。
　何が起こるかわからないから警戒しつつ行きましょう」

「特異点の湖までは私が案内します。ここからはそう遠くありません。みなさん、よろしくお願いします！」

　一方、今回のキーマンであろう四十九院先生は、首回りや袖にファーをあしらった黒の毛皮のコートを纏い、黒のアストラハン帽を頭に乗せてアンニュイな表情。
　行く手を見遣り、やや遠いところに見える水色の円を見つけ、真っ赤なルージュの唇を尖らせる。