真っ赤な街だった。紅色で目が痛いほどだ。
それは屋根の色ではない。夕日の色でもない。
一面の赤は、房の付いた丸い中国提灯。
春節でもないのに真っ赤な提灯が街中にぶら下がっている。
ここは隣国中国のとある海沿いの街。通称
レッドランタン・タウン……だと思われる。
夜海霧 楓は華やかさの裏に匂うスラムの気配を感じ取ってため息を吐く。
「まさに、レッドランタンの街、だな」
先日、楓たちはR&R Agencyの依頼で、
寝子島で落神伝説の調査を行った。
その際、落神神社の中の小さな祠から、ご神体が盗まれていることがわかった。このご神体、寝子暦ゼロ年に落ちてきた落神の像で、島の老人が言うには、体の中に宝の地図が埋まってるというのである。宝と聞いては黙っていられない梨香は、その日より調査を開始した。
進展があったと連絡があったのは昨日のこと。
今日、梨香は協力者を集めての新たな仕事を依頼しようとしていた。
――昔の落神……寝子暦ゼロ年の落神だから、零神(ぜろかみ)と呼ぶことにするわ。
仕事は「零神像の行方探し。場所は中国、レッドランタン・タウン」
そういった瞬間、ご神体があった祠から突然眩い光が放たれて――自分たちはここにいた。
「神魂が、ボクたちをこの街に飛ばしたのかな」
音海 なぎさは、物珍しそうに異国情緒あふれる街並みを見回していた。
「神魂もご神体を見つけてもらいたがってる、ってか。しっかし、いきなり飛ばしやがって……神魂のやることは人の都合を考えないのが困る」
楓は眼鏡を拭いて、掛けなおす。
「まあいい。いつも通りなら仕事が終われば帰れるだろ。なら、さっさと仕事をするだけだ」
なぎさたちは肉まんや点心の店などの屋台の並ぶ大通りにいた。
大通りからは細い路地が毛細血管のように伸びている。なぎさは細い路地の方を覗き込む。
赤い提灯は薄暗い路地にもたくさんぶら下がっている。
怪しい店のネオン看板がチカチカして治安はあまりよくなさそうだ。
盗まれた零神像は、この街にあるはずだと梨香は言っていた。
「坂内さんの話によると、裏の世界では、仏像とか神像の窃盗ってわりとあるらしいね」
「盗まれた像は海外に流出して、どっかの寺とか宗教団体のご神体として祀られたり、好事家の手に渡って表舞台から姿を消したりする」
「うん。そういう盗品の売買を行うブローカーがいるって言ってたね。で、坂内さんたちが昔の伝手を辿って調べたところ、零神像によく似た特徴の像が、この街にいる故買商のところに流れたのがわかった」
「ところがこの故買商――盗品と知ってて物を扱う商人のことだが――
申 海波(シェン・ハボ)って名前のジジイで、用心深くてなかなか尻尾を掴ませない。現地に来るしかない、ってとこで、神魂が飛ばしてくれたわけだな」
「零神像の行方を知る故買商探しか……ちょっとわくわくするね」
知的好奇心で瞳を輝かせるなぎさに、「そうか?」と言おうとしたそのとき。
路地裏から飛び出して来たチャイナ服で三つ編みの少年が、楓の手をぎゅっと掴んだ。
「助けて!」
「どうした?」
少年は裏通りの奥を指さす。真っ赤な丸い提灯が空中に浮いている。
提灯には、まるで檻に閉じ込められて助けを求めているかのような、黒い人影が映っていた。
提灯の真下には、薄汚れたシャツの男の子が倒れている。
「仲間、提灯に、喰われた! 助けて!」
「……少年。俺のモットーはギブアンドテイクだ。助けてやってもいいが、お前、俺に何をくれる?」
「夜海霧くん、今そんなこと言ってる場合じゃ……」
なぎさの声を遮って、少年は早口でその条件を呑んだ。
「オレ、
ユチェン。オレ、聞いてた。お前たち、ハボ爺捜してる。オレ、ハボ爺知ってる。仲間助けて、街の人助けて、オバケ提灯みんな倒してくれたら、教える」
「なるほど。要求が多いが、報酬は悪くない。その話、乗った!」
言うが早いか楓は地面を蹴り、ナイフで真っ赤な丸い提灯を真っ二つに切り裂いた。
その途端、提灯は命を失った羽虫のように地面にぽとりと落ちた。裂かれたところから靄のようなものが流れ出て、倒れているユチェンの仲間の男の子の口に入ったかと思うと、男の子はひゅうっと息を吸って起き上がり、勢いよく咳き込んだ。
「生き返ったな。よかった」
そう思ったのも束の間、路地の奥から、複数の赤い提灯が揺れながらこちらに迫ってくる。
「ひとまず逃げるぞ」
楓は踵を返して走り出した。ユチェンが仲間に肩を貸して後を追う。
なぎさは、はっとして振り返った。
「坂内さんは?」
そういえばR&Rのボス、
坂内 梨香はいつからいなかった?
「まさか――坂内さんも提灯に喰われた?」
レッドランタンタウンは、不穏な異変の影に覆いつくされようとしていた。
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
夜海霧 楓さん、音海 なぎささん、ガイドにご登場いただきありがとうございます。
ご参加いただける場合は、ガイドの内容に囚われずご自由にアクションをおかけください。
こちらは「R&R Agency:file2-01:落神伝説レポート」の続き<file2-02>にあたるお話ですが、
R&R Agencyのエージェント以外の方にもご参加いただきたく思い、
シリーズ名を<零神探訪>(ぜろかみ・たんぼう)とさせていただきました。
3~4回かけて、冒険やバトルや旅をしながら、
寝子暦ゼロ年の落神や伝説、零神の宝について調査するシリーズとなる予定です。
皆さまお誘いあわせの上、どうぞご参加くださいませ。
※R&R Agencyはシーサイドタウンにあるオカルト調査会社で、
超常現象に理解があるひと・もれいび・ほしびとさんたちを
エージェントとして雇って事件の調査・解決をしています。
より詳しい情報はこちら
概要
落神神社から盗まれた零神像の行方を知るために落神神社に集まっていたところ、
突然、中国の海沿いのとある街へ飛ばされた一同。
紅燈揺れるこの街で、異変に巻き込まれてしまいました。
異変を収拾し、故買商の申 海波(シェン・ハボ)老人を見つけるのが目的です。
◇紅燈火街(レッドランタン・タウン)
房の付いた赤くて丸い中国提灯が、軒下から路地の合間までびっしりぶら下がっている異国情緒あふれる街。
横浜の中華街に似て、点心や肉まんなどの食べ歩きの店や、チャイナ服や雑貨の店が軒を連ねている。
老若男女がそぞろ歩く活気ある街で、最近は観光地としても人気が出てきている。
しかし一歩裏路地に入るとスラムが残っており、犯罪や怪しい商売も盛ん。
言葉は、ガイド本文のように片言でなんとなく通じると思ってください。
◇あなたの立場
梨香に見出されて依頼があったエージェントでも、
エージェントではないけれど梨香やR&Rと交流がある人でも、
もれいび系コミュニティのメンバー(R&Rから協力依頼があったという設定を使っていただいてもOK)や、
ほしびとさん(R&Rとして酒場のクエストボードに依頼書を貼ったので、
それを見たという設定を使っていただいてもOK)などご自由にどうぞ。
エージェントの場合…………一定の報酬が支払われます。
とくにアクションに書かなくても支給されたイヤホン型通信機器と、
エージェント間ホットラインで個別&グループで連絡を取り合えます。
エージェントでない場合……エージェントと連携をとってもよし、とらなくてもよし。
以前エージェントだったけれど今回は違うなどでもOK。
自由に動いてください。
異変について
街中の赤い提灯が妖怪化して人を襲い始めた。
提灯は真ん中から横にぱっくり口を開けるように割れて、襲い掛かった人の魂を食べてしまう。
魂を食べられた人は、生気を失って意識をなくし、その場に倒れてしまう。
一方、魂を食べた提灯には、食べた相手の影が映る。
影が映っている提灯を倒せば、魂は元の人間に帰って、人間は目を覚ます。
提灯は直径50cmほどの縦につぶれた楕円で、紙製。
穴が開いた程度では倒れないが、真っ二つになったり燃え尽きたり、そのほか工夫すれば倒れる。
妖怪化した提灯は、空中を自由に浮遊することができ、
回転してぶつかってきたり、房を鞭のように使ったりして反撃もしてくる。
提灯の妖怪化は路地裏の奥の方から連鎖するように起こっているらしい。
騒ぎは徐々に拡大しており、大通りも騒ぎになりはじめている。
提灯の数が多すぎるので、異変の元を絶たなければイタチごっこだ。
アクションについて
<アクション例>
1.オバケ提灯の対処をする・戦う
2.異変の元を調べて元を断つ
等ご自由にどうぞ。
<持ち物>
基本的には本人が持っていておかしくない持ち物。
今回は入手が可能であれば、拳銃、ナイフ、剣などの武器も持ち込み可能とします。
この街では、裏路地の店にある程度売ってたりもします。
ただし、星幽塔産の武器は持ち込めません。
<ろっこん>
もともと迷信深い土地柄であるのに加え、
街が妖怪騒ぎになっているので、ろっこんもその一部とみなされ、
派手に使ってもフツウは壊れないようです。
R&Rのエージェントとして行動する場合は、アクション冒頭に【R&R】のタグを入れてください。
登場NPC
坂内 梨香:R&R Agencyのボス。
寝子島高校を卒業しR&Rのボスに就任。
今回はいきなり提灯に食われてしまった。
リンコ・ヘミングウェイ:R&R Agencyの調査員。
梨香の相棒。故買商・申海波老人は昔の馴染みらしい。
今回は梨香を救うため提灯との戦いに参加。拳銃を使う。
申 海波(シェン・ハボ):故買商
ユチェン:
チャイナ服で、黒く長い三つ編みを後ろに垂らした、11~12才の少年。
ガイドの男の子のほかにも何人か仲間が喰われているので助けるべく、
男の子を安全な場所に休ませたのち、PCたちと合流する。
上手くはないがナイフを使え、PCたちと一緒にオバケ提灯と戦う。
ハボ爺の情報を知っているらしいが、かなり口は堅い。
それではご参加お待ちしております!