＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）｜リアクション

＜零神探訪＞白の獄（ホワイト・プリズン）

●解き放たれた時

　見守っていた八神修の目に、開かれた玉手箱の中からあふれ出たそれは、浦島太郎のおじいさんが浴びた白煙というより、無秩序に絡まった無数の紬糸の如き突風と映った。
「くっ！」
「なんやのこれ」
　夜海霧楓や伏見真も、腕を前に翳し、目を瞑る。
　吹き飛ばされないように咄嗟にユチェンを支える二本の腕。
「これが……『時』？」
　紬糸の風はまるで触手のように水中の黒衣の女に絡みついてゆく。
　湖中の女は見る間に、時の糸の繭に覆われる。
　呼吸ひとつ、目を瞠る間に繭は解けて消え、光が溢れた。

　――ようやく。

　響くは四十九院先生に似た、落ち着いたトーンの女性の声。
　それはまさに、湖中からの声。
　艶やかな黒髪と張りのある肌が蘇り、漆黒の睫毛に彩られたナナカマドの如き赤い瞳が開かれる。

　――来ましたね、もう一人の私。

　夏夜の心がチクリと痛む。
　クローネを愚烏と憎む夏夜、誰何する声に棘が含まれたとて仕方あるまい。
「あなたは、誰。クローネ、なの？」
　湖中の女はナナカマドの瞳を夏夜へ向けた。
　扇の如く広がった黒髪が波打つ。

　――私は……私が、絶神のしもべとなった瞬間に分かたれた魂。

　やはりクローネなの？
　そう眉根を寄せる夏夜に、ミラが驚いたような顔で告げる。
「この方は……千年以上前のクローネが残した、善き心の残滓とでもいうべきものですわ」
「僕たちが知っているクローネとは、別物ということ……？」
「おそらく」
「玉手箱の中の『時』が、僕たちが知る愚烏ならっかみクローネになる前の、大昔のクローネの魂を蘇らせた……そういうこと？」

　――絶神に仕えるのに不要なものとして弾かれ、忘れ去られていたのがこの私。しかしいつか、私が役に立てる日が来ることを予感していました。

　湖中からゆっくりと腕を伸ばす。
　四十九院先生は無意識に歩み寄り、その場に跪いて、伸ばされたその手に、自らの手を重ねていた。
　ふたりのよく似た女性は水面を境界に鏡合わせのような体勢となる。白と黒が対比をつくる。

　――目覚めなさい、私。

　声と同時に、スパーク！
　四十九院先生が纏う白き衣が翻り、閃光と衝撃がその指先を痺れさせる。

「な、何を――！？」

　――力を授けました。そのろっこんで皆を助けるのが、これからのあなたの……未来の私の使命。

「先生が、もれいびに？」
　呟いたのはサキリ・デイジーカッター。

　その声が聞こえたのか、ふ、と湖中の女は自分を取り囲む若者たちを見回した。

　――あなたたちにも渡したいものがあります。
　　　絶神から未来を守るのに助けとなるであろうものを……。

　残された力が僅かなのか、湖中の女性の声が遠のいてゆく。

　――けれどその前に、知ってほしいことが……。

　湖中の女性の身体が、青い湖に沈み始めた。

「待って。知ってほしいことって――？」

　呼び止める音海なぎさの声も半ば、突然、自分たちが立っていた湖面が不可思議な力を発揮するのをやめた。ひとことで言うと、足元が『割れた』のだ！
　当然ながら、身体は湖中に引きずり込まれるように落ちる！

「えっ！」
「うわっ！」
「嘘でしょ！？」

　水中に没したと思ったのも束の間、時の紬糸が皆の身体に絡みついてきた。
　一行の意識は、途端に青から黒へ、呑まれる――！！！

＜つづく＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございます。笈地です。
今回もご参加ありがとうございました！

５月にもかかわらずこの数日暑いですね。

あつ～いといいながらさむ～いシナリオを書くのは
なかなかおつなものでした。

ほうじ茶とかホットチョコとかもおいしそうで。
ワンちゃん大活躍、猫ちゃんたちも可愛らしくて。
そこにいるだけでいい！　もふもふ抱きしめたい！

さて、＜零神探訪＞もう1話、続いてしまいます。

赤→青→緑　までは＜零神探訪＞第１部、
白→？？？　　　は＜零神探訪＞第２部
のような位置づけになってきました。

次回はいよいよ、＜零神探訪＞のクライマックスとなります。
動物さんたちもいっしょに行ける予定です。

わたしの次の担当シナリオは寝子高夜市なのですが、
そのあと、＜零神探訪＞「？？？」へ突入できればと思っています。

どうぞ、続編までもうしばらくお待ちくださいませ。

それではまたお会いできるのを楽しみにしております。笈地でした。

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