【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ

　ひと騒動があったが、最後は獅子目悠月の名が呼ばれた。
　まだ若干、狼狽している領主の様子に、獅子目は親身に声を掛ける。
「無理しなくてもいい、フラン嬢……」
「心配していただきありがとうございます、獅子目さん。かなり驚きましたが、私はあなたに感謝の意をどうしても伝えたいのです」
「そうか、そういう事ならば……」
　獅子目は作法に則って儀式に臨む。
　臆することなく優雅に跪くと、彼に肩に儀礼用の弓が宛がわれる。
「獅子目さん……。今、私がここにいるのは、ほかならぬ貴方がいてくれたからです。あの戦いで、貴方がいてくれて、本当に良かった……」
　その言葉は、フランチェスカの本心だとすぐに獅子目は理解できた。
「これが私なりの、最大限の感謝の表れです。どうか、受け取ってください」
「謹んで承ります」
　臣下に勲章を授与され、騎士として認められた獅子目は、踵を返して参列者へ向き直る。
（ブリュンヒルデ……。いずれ激突することになるのだろう）
　獅子目は目の前の市民たちのひとりひとりの顔を見遣る。
　皆、先の事があってか不安そうに震えていた。
（民を守りたい。先の戦役で兵士たちの前で願ったように……）
　そして彼は告げた。
「皆の心の中に騎士の姿を思い描け！　そして高らかに、誇りをもって歌え！」

　獅子目がサジタリオ讃美歌を謳い始めた。
　その透き通るような神聖な歌声は、式典会場にいる者たちの心をことごとく震わせてゆく。
　ひとり、またひとり、讃美歌の声の数が増えてゆく。
　いつしか、会場全体で合唱が湧き起こっていた。
（そうだ、騎士としての力を示すように、歌が希望になるように……！）
　さっきまでの剣呑な雰囲気が霧消してゆく。
　代わりに生まれたのは、美しい旋律と希望の声。
　こうして、式典はハプニングに見舞われたものの、盛大な盛り上がりを見せて大盛況のうちに幕を閉じた。