三不管ノスタルジア｜リアクション

三不管ノスタルジア

My dear delusional Dark Night

１８.三不管ノスタルジア

　「……っ」
　体を横に開き、男が突き出した腕を回避。それと同時に男の体の側面へと踏み込む。『入り身』と呼ばれる動作である。
　男の伸びきった腕を掴むのはエレノア。そのまま、足払いと同時に投げ落とす。

　ドンッ。

　迷い無く地面に倒れた男の肘関節を極める。じわりじわりとエレノアは力を込める。

　「いてててててて！　悪かった！　悪かったから許してくれ！」　
　バンバンとギブアップをするように木造の床を叩く男。
　「時間もありませんし、これで許してあげましょう」
　腕時計を確認してからエレノアは男の頭を長靴で軽く踏みつけ、水鉄砲を放つ。
　「ぐえ！　なんだこれ！　離れねぇ！？」
　男の体は地面と同化したように接着されてしまっていた。
　「暫く……反省なさっていてください」

　彼女は屋上への最後の階段を上る。

　屋上。夜と夜明けの境目。
　ミッドナイトブルーは次第に明るさを帯びた瑠璃色へと変化を始める。九龍から臨む香港は、啓徳空港に着陸する夜間便のテールランプ、不夜城のように明かりが点いたままの一部のビル群。青い夜に浮かぶそれらは幻想的であった。
　「少し遅かったでしょうか」
　夜明けが苦手なエレノアはそう言いながら九龍城砦を見下ろす。一部はまだ赤い炎が見え、白い煙も上がっている。
　けれど、彼女は九龍の景色を目に焼き付けることができたことに満足そうな笑みを浮かべる。

　「過去に失われたものは美しく……儚いものです」

　午前４時５９分。

　脱出成功：【エレノア・エインズワース】

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