三不管ノスタルジア｜リアクション

三不管ノスタルジア

１２.空白の地下

　「爆発か？」
　チームの方針通り、地下へ向かう階段を下りつづける刀たち。彼らの居る場所よりも上層からの爆発音と揺れを感じる。
　「そんなに近くじゃないわ。大丈夫よ」
　蛇那伊は揺れで崩れてきた小規模な瓦礫からブリジットたちを庇いながら優しく告げる。彼の筋肉質な体は、瓦礫の粉で汚れこそすれ傷はないようだった。
　『先を急ぎましょう』
　時間が差し迫っていることと、状況の変化を感じた小淋がスケッチブックにそう示す。
　『更新』
　続けて彼女は再びろっこんを発動させる。

　自動筆記される文字。その文字が意味を成した時、小淋の表情が凍りつく。

　『彼女の死により、真実に辿り着く』

　その預言は残酷で、そして容赦がなかった。

　「え？」
　『……』
　「ふむ……」
　彼女の予知に戸惑う一同。
　「大丈夫、守ってみせるわよ」
　と、優華は友人のことを思い。
　「そうそう、私のろっこんもあるし」
　円は自身のろっこん『ブレイブハート』を信じた。彼女のろっこんは出口に向かわないという危険な行動で発動はしていたのだ。

　「着いたわ」
　そんな空気をかき消すようにブリジットが宣言する。
　長い階段を下りた先、そこは『立ち入り禁止』の文字が上部で煌々と輝く、金属製の大扉だった。
　「まるでシェルターみたいね」
　と、蛇那伊が呟く。
　「こういった建物は九龍には存在しないと思うんだけど」
　天野が疑問を口にする。異常に長かった階段も含めて、この九龍は作られたものであるということを彼は再認識する。
　「そうね。今までの九龍の中と雰囲気も違うわ」
　優華が同意する。空気の質がここだけ違うのだ。九龍にしては『澄んでいる』。
　「警戒したほうがいい」
　刀が木刀を構える。大扉の周囲の壁も床も白く清潔感のある色彩を帯びていた。
　「じゃあ、僕からいくよ。ろっこんが継続していれば即死なんてことはないだろうし」
　と、『ブレイブハート』を発動させている円が扉を開くことを提案する。
　『気をつけてください』
　小淋がスケッチブックにそう書き。
　「一応、隊列も組んでおこうか」
　戦闘要員の面子を前に、後ろに戦闘に不向きな面子が並ぶ。
　「じゃ、いくよー」
　円が扉を開いた。

　ギィィィィィ。
　ゆっくりと扉が開かれる。
　そして――。

　パンッ。

　乾いた音。

　「……あ」

　円の口から短い声が上がり、それと同時に彼女の頭部に赤い点が穿たれる。

　静かにそして、ゆっくりと彼女は倒れ伏す。倒れた彼女は動かない。

　「……！？」

　硬直する面々。
　円を見つめるもの、扉の奥を見つめるもの。
　そのどちらを見つめても彼らは絶句するしかなかった。

　円の『死体』は時間を経たずにかき消えて。そこにあったはずの彼女の痕跡は消えうせる。

　扉の奥は漆黒の闇。
　厳密にいえば何もないという空間が其処には在った。

　「……戻ろう」
　押し殺した声で誰かが提案する。
　感情も思考も混乱しつつあった彼らは落ち着ける為に一度、拠点に戻る。

　時間の猶予はさほど無い……。

　桜庭円：【脳幹損傷による脳死】