三不管ノスタルジア｜リアクション

三不管ノスタルジア

１１.Ｌｏｎｅ　Ｐｌａｙｅｒ

　「爆発があったか」　
　さして驚く様子も見せず、黒髪にツインテールの少女は淡々と移動を続ける。
　建物同士の狭い壁を出窓や突き出たボルトを足場にして身軽に登っていく。それは屋上への最短経路である。もちろん途中で天井などの行き止まりがある場合は迂回せざるを得ないのだが。直線的に移動できるのであれば屋上が最も近いことを彼女は理解していた。
　彼女の名前は双葉仄。彼女はこの世界をゲーム感覚で臨んでいた。
　「ここは、こうか？」
　足場がない箇所はパイプやケーブルをロープ代わりにして登ろうとする。だが、小柄で軽量とはいえ人の重さに耐えれるほど丈夫なものではない。
　その試みは失敗に終わるのだが仄は楽しんでいた。
　「誰か来るな……」
　やむを得ず通路を移動する際には彼女は瓦礫や柱の影、ゴミ箱などに身を隠す。必要なら下層の穴にぶら下がる徹底ぶりで。
　そう、彼女は交友がある人間や明らかに善良そうな人間以外は信用しないことにしていた。
　まるで潜入任務をするスパイや忍者のような動きで彼女は屋上を目指す……。
　「……温いゲームだ」

　「やはり現地の協力者は便利ですね」
　ナタリアは前を歩く女性にエアガンを突きつけながら歩いていた。
　「こんなの協力じゃなくて脅迫よ！」
　左掌を押さえながら歩く女性は薄手のキャミソール姿だった。
　ナタリアがろっこん『アゴーニ』で女性の掌を撃ち抜き、道案内をさせていたのだ。
　「屋上まで辿り着けば解放しますので。ああ、後、嘘をついたら死んで貰います。タイムリミットが近いので急いでください」
　淡々と必要事項だけを述べてナタリアは屋上へと向かう。

　「つ、次は左です……」
　セルゲイに首を掴まれたまま血みどろのチンピラの１人は方向を示す。
　「ありがとネー」
　普段通りの雰囲気に戻ったセルゲイだが、チンピラを掴む腕だけは獣のものであった。
　「時間があれば悪夢も楽しませて貰いたかったんだがな」
　阿片窟へ向かう時間はないと判断したセルゲイもまた一番近い位置にある屋上を目的地としていた。