＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）｜リアクション

＜零神探訪＞千年茨の遺跡（グリーン・ルインズ）

●鈴島：緑の回廊、小部屋

「これは――」
　＜スポットライト＞で小部屋の内部に明かりを灯したブリジット・アーチャーは、壁から天井から床まで、部屋中に描かれた壁画に息を呑んだ。他の回廊にあった小部屋と壁画の規模が違う。そして、健吾以外の者たちは、この壁画に見覚えがあった。
「青の幽玄の聖域にあったのと、そっくり、だね」
　恵御納夏夜は目の前の壁画をスマホで撮影し、そうつぶやく。
　真黒き烏を従えた黒き狼――絶神。
　絶神のあとを悪魔のような者、異形の者、妖怪めいた動物たちが付き従い、まるで百鬼夜行の様相だ。
　しかし一同が目を瞠ったのは、その迫力に気圧されたから、だけではない。青の幽玄の壁画は、零神側が描かれておらず『未完成』であったが、この部屋の壁画は『完成』されたものだったのだ。

　聖域で、白き雲間から差す光で表現されていた部分。
　そこに、白き衣を纏い、頭に薄布を被った女神が描かれている。
　女神の周りには西洋画の天使のような真白き羽根の生えた人々や、知性溢れる瞳の猫たち、高貴な佇まいの尾の長い鳥たち。かつて、天界を訪れたことがある八神修は、これが天使や、二足歩行の『ねこ』や、不死鳥たちではないかと一目で察した。

「大昔の、神々の戦い――この壁画が『元』だったんだ」
　なぎさたちから、折本の解読内容については連絡が入っていた。

　――狼神は不死鳥の子を従え、女神は猫を供として戦った。

　まさにそのシーンを描いたものだろう。

「ねえ！　絵は塔のほうへ続いているわよ！」
　ブリジットが皆を呼ぶ。緑の回廊では小部屋と小塔は隣り合っていた。小部屋から小塔へのごく短い回廊も、百鬼夜行のような動物や妖怪のような画が続いているのである。

「……神さんの像が元に戻ったらユチェンさんって向こうもどされるんやろか？」
　歩きながら、伏見真はユチェンにそんな質問をしてみた。
「……わからない」
「大分こっち馴れたみたいやけど、向こうとどっちが住みよい？」
　自分でも、ちょい意地の悪い質問やろか、なんて自覚しながら問いかければ、ユチェンは真を見て、困ったように鼻の頭を掻いた。
「こっちは、すごい。都会だし、なんでもあるし……でもオレ、やっぱり故郷が好きだ」
「ん」
　すこしだけ、自分がいる世界を選んでほしかった気もした。
　けれどそうしたら、きっとがっかりしたような気もした。
（どっちの答えだって、彼が選ぶなら、それでええんよね）
　改めて今を大事にしようという気持ちが湧いてくる。
　それで、良かったんだろうと思う。

　一行は、ブリジットの＜スポットライト＞を先導に、小塔の方へ進んでいった。