【星幽塔】第一階層　マイ・フェイタル・シャドウ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　マイ・フェイタル・シャドウ

【作戦１－７：爆砕】

　ゲース隊が最前線から引き揚げて砦に帰還すると、砦内に爆薬の入った土嚢やら木樽が次々と運び込まれていた。
「お疲れさまです、ゲースさん」
　ペルラ・サナーレが癒しの光でゲースの傷を癒す。
「サンクス、ぺルラ殿。なぁ、ところで、せっかく作った砦なのにぶっ飛ばすのかよ？」
「……ええ、そういう作戦ですから」
　苦笑いするぺルラ。
　奥ではミハイルが前線へやってきたフランチェスカに「この次が正念場だ。頃合を見て下がれ」と釘を刺していた。
「八神さんとミハイルさんが手筈を整えています。ひとまず、それまで砦の中で英気を養ってください。御馳走が沢山ありますよ。今、平らげておかないと、爆破で全部無駄になっちゃいますので」
「そうだ、運ぶの結構苦労したんだから残さず平らげてくれ」
　八神も火薬の入った土嚢を猫車で押してながらやってきた。
「瓶入り星の珈琲を飲めば星の力も回復する。幾らでも提供するから星の力は無尽蔵だ」
「それはありがたい。諸君、聞いたか！　お言葉に甘えて、束の間の休息だ！　今日は幾ら飲み食いしても無料（タダ）だぜ！　ただし、飲み食いした分だけ命を懸けて戦働きしてもらうからなァ？」
「「しゃああああっ！」」
　士気盛んな騎兵たちは我先にと砦の中の食堂を目指していった。
　ゲースも食堂へ向かうが、その途中、フランチェスカの前に跪いた。
「これはこれは、麗しきフラン姫。このような最前線でお会いできるなんて、このゲース、恐悦至極」
「ミハイルさんから貴方の働きを聞きました。よくぞ無事に戻って来てくれました」
「ははっ！　このゲースにはもったいなき言葉でございます！」
　相手が敬うべき存在の場合、ちゃんと騎士道精神に則った言動をとるゲースである。
　そのゲースは懐から、忍ばせていた手紙をフランチェスカに差し出す。
「誠に恐縮ですが、姫様へ手紙をしたためさせていただきました。さほど暇は取らせません、どうか、お目通しください。では、失礼！」
　ゲースは立ち上がると、颯爽と食堂へ向かっていった。
　気のせいかだろうか、酒だ肉だヒャッホーッ、と聞こえたような気がするが。
　フランチェスカは「あのような騎士様がそんなことを言うはずがない」と首を横に振った後に、渡された手紙へ目を通し始めた。

　フランチェスカ様へ

　今日は姫様が戦うには良い日ですな。

　しかし今日は姫様が死ぬ日ではありませぬ。

　万が一、天に召される時があるなら、
　
　斯様なドブ臭く血生臭い戦場なんかではなく、

　どうか姫様らしく美しい城の中で。

　それも民から親しまれ、子々孫々に愛されたうえで、

　今より何十年も先に多くの瞳取られたうえで、と願います。

　どうか貴方の騎士である私めに

　姫様の麗しき姿を胸に留めたまま

　戦禍の泥に消える幸運をお許し下さい。

　おさらばを！

　追伸　生きて返ったら今穿いているパンツの色、教えて！ヒュー ☆

　ぐしゃりっ！
　フランチェスカが手紙を握り潰す。

「どうした？　顔が赤いぞ、フランチェスカ？」
　ルネがどこか具合が悪いのか心配げに声を掛ける。
　彼女は今回、衛生兵としてフランチェスカの護衛班をサポートする予定だ。
　持ち物は全て回復薬という徹底ぶり。
　ゆえに、手紙を読んでいないルネは、フランチェスカの体調が悪くなったのかと不安だった。
「具合が悪いなら星の滴ドロップを舐めるんだ。滋養強壮にも効く」
「あ、ありがとうございます。いえ、具合が悪いのではないのです。ちょっと驚いただけで……」
「そうか？　そうならいいんだが……。ああ、今そっちへ行く！　すまない、フランチェスカ。怪我人の手当てをしてくる！」
　ルネは指揮下の衛生兵と共に、先程の戦闘で負傷した騎兵と弓兵の手当てに奔走。
　こういったリカバリーの手厚さが今回の戦いは充実しているのは非常に有利な点だ。
「こ、これは困りました……！」
　だが、今、フランチェスカはパンツの色を尋ねられ、答えるべきか悩んでいたのだ！