【パンツはショクザイだし】

「事故でもパンツを切り刻んだのは事実、その償いは自らの身で！」
　ぐっと涙を堪える尾鎌は、早速服を脱いでブーメランパンツ一丁でポージング。
「女子が穿くことはないわ。あたしは女装趣味なんてないけど、贖罪はしないとよね……」
　桃原の上から退くと、畑生の持っていたパンツの１枚を勝手につまみ上げた。
「あらぁ？　いい出来じゃな～い？」
　自身のブーメランパンツを破り捨てて全裸になると、そのパンツを穿こうとする。
　だが！
　
　ビリリリリリッ！！
　
「ああんっ、サイズが小さすぎるわ！」
　なんと、サイズが合わずにパンツが裂けてしまった！
　なんという大殿筋！　カッチカチやで！
「この御法度野郎！　フルチンでうろつくな！」
「なるほどね、今日一番の敵は変態じゃなくてオカマだったのか」
　家庭科室の秩序を守ろうと、御剣と逆巻が尾鎌に飛び掛った！
　しかし、尾鎌の中国拳法が２人の攻撃を受け流してしまう。



「あらあら？　遊んでくれるのかしら？」
　尾鎌は独特の構えで２人を挑発する。

「学生支援部、御剣 刀。推して参る！」
　御剣は木刀を抜き、切っ先を尾鎌へ向ける。

「逆巻 天野。如何なる些細なことであれ、迷惑行為は許さない」
　逆巻は隠し持っていた鉄針やチョークを指の間に挟むと、いつでも投擲できるように腰を据える。



「「だから、いい加減パンツ穿けェェェッ！」」





「穿けるパンツがないのよォォォッ！」






　こうしてフルチンのオカマ VS むっつり＆ドＳタッグの場外乱闘が勃発。
　なんだこのカオス。

「さて、やっとできたか」
　カオスの真っ最中、落ち着き払った旅鴉 月詠はオーブントースターから作品を２個取り出した。
「……何作ってんだ？」
　保健室から戻ってきた八神が尋ねると、真顔で旅鴉は答えた。
「パンツ作ってる」
　なんと、パンツ型のパンを２個焼き上げていた。
　持参したマネキンで成形したため、実際に穿けるサイズで焼き上がっていた。
　わざわざお付きのメイドにパン生地を持ってこさせたのは、こういうことだったのだ。
「パンが２つ。つまりパン・ツー。しかも丸見え」
「丸見えってレベルじゃないだろ……」
　むしろパンツそのものである。
　これには八神、眉間にしわ寄せたままフリーズしてしまう。
「ほら、パンの中が白い。ジャムやベリーで飾ればあら可愛い。穿けるサイズで作ったから履いてみ？　喰べることもできるよ？」
「いや……、遠慮しておく」
　八神は遠い目をした。

「……まあ、あれだ。前回は悪い事しちまったからな。てめぇ等が作ったパンツ穿いてやってもいいぜ？」
　吉祥寺が高圧的にそういえば、冴木が流れるフォームで土下座をした。
「お願いします！　この冴木 竜司のパンツを穿いてください！」
　そう言いながらまた股間から自作のパンツを取り出す冴木である。
「ここが一番安全だしな！」
「……それを履けって言うのか」
　吉祥寺が露骨に嫌がる。
「だったら私が履こう。おさわり厳禁だが」
　旅鴉が挙手するではないか。
「そのかわり、このパンツを穿いてほしい」
　取り出したるは『虎のパンツ』。
　もっこり部分がやけに立体的なワイルドパンツである。
「これを穿いて、パンツいっちょで私の絵のモデルになってくれ」
「まぁ、いいだろう。それで穿いてくれるなら！」
　交渉成立。
　こうして冴木は陸上部で鍛えた筋肉を旅鴉の前に曝け出す。
「ヒトの身体を描く経験は貴重だからね。肉の付き方とか勉強になる。ああ、心配しないでくれ。描いた絵は今後の創作の資料で使う。勿論、健全な意味で」
　冴木の股間で温まったパンツを、旅鴉は全く気にせず履きこなす。
　冴木は旅鴉からカメラを借り、旅鴉のパンツ姿を次々に激写していく！
　こうして、パンツ同士の写生＆撮影大会が行われることになった。
　やっぱりここもカオスだ。

「吉祥寺君、折角だから私のパンツを穿かないかね？」
　畑生が自信ありげにメッシュ素材のスケスケパンツを吉祥寺に差し出してきた。
　それに横嶋と堂島も乗っかってきた。
「「是非、おねがいしゃーっす！」」
「……分かったよ。堂島と横嶋は前回のこともあるしな」
　吉祥寺は差し出されたスケスケパンツを穿くと、スカートを脱ぎ捨て披露。
「……ど、どうだ？　……その……変だったり……しねぇか？　すーすー、すんだけどよ……」
　それもそのはず。フロントの大事な部分以外は全てメッシュ素材。後ろは丸見え状態と大差ない。
　畑生は自分の作ったパンツの出来と、モデルの穿きこなしに深い感銘を受けた。
「素晴らしい！　これほどまでワクワクするとは思わなかったねぇ！　もっとよく見せてくれたまえ！」
　畑生はしゃがんで、殆ど接写状態でパンツをガン見しだした。
「う、うわぁぁん！　やっぱり限界！　そんなじろじろ見ないでぇ！！」
　これには吉祥寺、悪ぶる余裕がなくなり、ただひたすら羞恥に耐え忍ぶ乙女と化す。
　横嶋と堂島は股間を抑えて鼻息を荒くしていた。
「うう……お嫁に行く前にこんなに見られて……！　俺、お嫁に行けねぇよ……」
「それは悪いことをしたね。しかし、君の肉体美と私のパンツのデザインの相乗効果は目を見張るものだ」
　畑生は余った生地を吉祥寺の腰元に掛けてあげた。
　これでパンツはもう見えない。
「恥ずかしい思いの中、付き合ってくれてありがとう。これで彼女にプレゼントするパンツの出来栄えに自信が持てたよ」
「……畑……生……」
　急に紳士的な振る舞いをする畑生に、どう接していいか分からなくなる吉祥寺だった。
　一方、変態２名はというと。
「その乳、尻、太ももを！　見せて、揉ませて、触らせて！　もっとエロい事させて下さい！！」
　横嶋が懇願すれば、
「今こそ、その布地からパンチラを拝んで大願を成就させる！」
　と堂島が吠える！
「「女神様、バンザーイ！」」
　変態どもが飛び掛ってきた！
「きゃああああー！！」
　結局、吉祥寺は下校時間近くまで変態２名に追い掛け回され、途中で遭遇した桐島先生に助けられるのであった。
　なお変態２名は、桐島先生の指示のもと風紀委員に連行され、翌日までに反省文（400字詰め原稿用紙100枚）提出の宿題を課せられた。
　南無三……。

「今日はこれくらいにしてあげるわ……」
　尾鎌はフルチンのまま悠然と家庭科室を後にした。
　逆巻は「もう疲れた、帰る」とそのまま帰宅。
　御剣は支援部部長の浅山が気懸りで戻ってきたのだ。
　そこへ魂行がパンツを浅山に差し出すではないか。
【え、私にですか？】
　ジェスチャーで浅山が伝えると、魂行はこくりと頷いた。
「参考に……なった……、ありがとう……」
「それ、パンツじゃないか。え、部長の？　ってことは……」
　御剣の顔がみるみるうちに赤く染まる。
「は、穿いてないのか、浅山？」
　……浅山は震えながら、恥ずかしさに耐え切れずに泣いてしまった。
　泣きながら浅山は筆談で、小さな文字を書いた。
　
『見ないでください……』

　ぷくーと膨れっ面付きで。
　彼女はポロポロ泣きながらスケッチブックを御剣の顔に押し付ける。
「わ、分かった！　分かった！　もう俺は退散するから！」
　これ以上、浅山の機嫌を損ねるのはマズイと判断した御剣は荷物をまとめ出す。
「……えっと、色々と鈍くて、ごめん。浅山」
　今日３度目の頭ナデナデは、とても優しい力加減だった。
　パンツ騒動、最後はきれいに幕引きと相成りましたとさ。















　……となると思ったか？
　
　現実は、くしゅん、と魂行がくしゃみをして、浅山のスカートが巻き起こるイメージをおこしてしまった。
　そのため、御剣は浅山の“マングローブ林”をダイレクトに目撃してしまう。
　その後どうなったかって？
　さぁ、どうなったんでしょうね……？
　皆様のご想像にお任せ致します。