【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド

【フランチェスカの証言　～遥か昔の出来事～】

　これは、私が生まれる前、つまり遥か昔の伝説上のアステリズムたちの話。
　この星幽塔は、皆さんの推測通り元々は双子の塔でした。
　もうひとつの名は、月影塔（ミズガルズタワー）といいます。
　この星幽塔（アストラルタワー）が『陽の存在』であるならば月影塔は『陰の存在』です。
　ふたつでひとつの存在が、双子塔のあるべき姿でした。
　星幽塔が月影塔を照らす代わりに悪感情などの陰のパワーを請け負ってもらい、それを陽のパワーに変換する月影塔が星幽塔を異次元の外敵から守ってきました。
　その外敵から身を護るための戦力が、竜牙兵でした。
　竜牙兵は、異次元の怪物と呼ばれる８つ首のドラゴンの骨から生み出された魔術傀儡兵です。
　遥か太古に襲来した８つ首のドラゴンは当時のアステリズムのひとり、姫騎士ブリュンヒルデによって討伐され、その遺骨の魔力に目を付けた当時の双子座のアステリズム、人形の魔女ラピスの研究によって製造・運営されてきました。
　……ところが、人形の魔女ラピスは研究に没頭するあまり、禁忌を犯そうとしました。
『竜牙兵があれば、隣接する多次元世界を我々の支配下に置くことができる』
『外敵から塔を守るのではなく、外敵のいる世界に乗り込んで天敵ごと滅ぼすべきだ』
　魔女の主張は日に日に強くなってゆきました。
　ですが、当然、他のアステリズムが猛反発しました。
　なかでも、ドラゴンを討伐した張本人である姫騎士ブリュンヒルデとの対立は激化するばかり。
　その緊張は果てしなく続く冷戦となり、いつしか双子塔は星幽塔側の光と月影塔側の闇の勢力で二分されてしまったのです。
　そして、遂に恐れていた事態が発生します。
　
　突如、人形の魔女ラピスが竜牙兵の大軍を率いて、星幽塔各層に攻め込んできたのです！
　竜牙兵の制御魔術は、彼女が最も得意としておりました。
　星幽霊は月影塔の竜牙兵に守られていたため、まともな戦力は当時のアステリズムたちのみ。
　圧倒的な戦力差でした。
　寡兵で彼らは懸命に塔を防衛しましたが、当時のアステリズムの多くはこの大戦で命を落としたのです。
　ですが、最後は姫騎士ブリュンヒルデが命と引き換えに月影塔の制御オーブを破壊。
　これによって、月影塔は事実上、封印されたのです。
　
　こうして、拠点を失った闇の勢力はたちまち打ち破られ、首謀者とその腹心たちは全員が捕えられ、処刑されました。
　もちろん、人形の魔女ラピスも例外ではありませんでした。
　首謀者である術者が処刑され、竜牙兵の操作魔術を扱える者が居ない現在、本来ならば竜牙兵なんてものは存在しないはずなのです……！

　ただ、可能性があるとするならば、魔女は己が処刑されることを予見していたはずです。
　何かしらの対策を講じていてもおかしくありません。
　例えば、分割存在（アルターエゴ）。
　アルターエゴは、星幽塔で生み出された人々の悪感情が、月影塔で具現化した分身のことです。
　不特定多数の意識集合体のような怪物を生み出す事もあれば、確固たる自我を持った一個人の存在も確認されたそうです。
　もしも、封印された月影塔内部で、魔女のアルターエゴがあらかじめ虎視眈々と復讐の機会をうかがっていたとするならば……？
　ステラオルタは、恐らくその尖兵でしょう。
　ステラ自身、先の大戦を経験していますし、操作術式だけは“知識として把握している”はずです。
　此方のステラは全く扱えませんが、ステラオルタならば悠久ともいえる長い歳月をかけて習得をしていれば、全て辻褄が合います。
　更に、ステラが存在する限り、ステラオルタを倒しても際限なく出現します。
　星幽塔の本体が健在ならば、アルターエゴは増殖が可能ですので。
　かといって、ステラに手を掛ければ、星幽霊の存在が危ぶまれます。
　我々が手が出せない事を、敵は知っているのです。
　だからこそ、ステラオルタを差し向けたのでしょう。

　……とはいうものの、急進派の大臣一派は、私のこの話を一蹴しました。
『そんな神話をアテにするより、この現実で具体的な対策を講じるべきだ』と……。

　本来ならば、これは皆さんが知り得るべきではない情報です。
　出来る事ならば、私たちアステリズムで解決したかった。
　……それが出来ない私の力量不足、どうぞ、笑ってくださいませ。