【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド

【開戦前・３（談話室）】

「さて、本日はどのような要件でしょうか、皆様？」
　フランチェスカの強張った笑顔に、対峙した者たちは違和感を覚える。
　彼女はテーブルの一番奥の席に座った。
「非常事態の中、話の場を設けてくれた事に感謝する」

　サキリ・デイジーカッターが一礼の後に近くの椅子に腰かけた。
「フランチェスカさん、どうしてもボクたち、聞きたいことがあって此処へ来たんだ」

　桜庭円も手近な席を引き、腰を下ろす。
「竜牙兵が街を襲うって、なんで今になって湧きだしたんだろう？　スコップにツルハシ、ハンマー……？　何かを掘り起こそうとしてる？　うーん、色々と気になるけど情報が足りないね」

　重厚な鎧を纏った白真白も首を傾げて桜庭の隣の席に座った。
「あっしもおたくに聞きたいことがあってねぇ？　ニッヒッヒ！」

　骨削瓢は今日も今日とて怪しくくぐもった笑いをしつつ椅子の背もたれに身を預けていた。
「ステラは星幽塔の危機であれば、いつも俺達の前に姿を現して助けを求めてきた。そのあいつがこの状況で姿を現さないのは、何かトラブルに巻き込まれたと考えるべきだ」

　緋色の羽織を着込んだ御剣刀が、前のめりになって着席。
「俺たちはこの事態を収束させるために情報が欲しい。たとえば、ステラの居場所とか！」
　風雲児轟もまた、フランチェスカを見詰めて語尾を強くする。
　集まった面々にフランチェスカは目を閉じて沈黙を保ったまま。
　これに各自は痺れを切らしたように口を開く。
　まずはサキリがフランに問い掛ける。
「あのステラがこんな事をするとは思えない。黒幕がいるんじゃないか？」
「ボクはステラちゃんの格好をした偽物じゃないかと思ってるけど……？」
　桜庭がサキリの話を遮る。
「桜庭、どうしてそう思うんだ？」
「城下町で最近、噂になってる双子塔、幽霊塔の話。あれって、どこから流れたのかな？　その偽物が流していると、ボクは思うんだ」
「僕も竜牙兵を率いるステラは偽物だと思う。同時刻に別の場所で目撃情報があるからね。あるいは飛躍した発想だが善と悪に分裂した様な存在かも……？」
「それが分割存在（アルターエゴ）なのかな？　フランチェスカさん、何か知ってる？」
　サキリと桜庭の会話に、御剣も割り込む。
「俺もその噂、気になっていた。というか、本当にステラの奴、何時ごろからいなくなったんだ？　それと竜牙兵が現れたタイミングや、ステラの２つの目撃情報が流れ始めた事に何の関係があるのか？」
「そうそう、ボクもそれがなんか腑に落ちなくてさ、刀くん？　普通のステラちゃんは表に出て来ないのは、今回の事情について何かしら知っていて、そのために何かしているのかな？」
　全員の視線は、フランチェスカに注がれる。
　そうして、フランチェスカはようやく重い口を開いた。
「……正直、驚きました。分割存在（アルターエゴ）の正体を、言い当てる方がいらっしゃるとは」
「それじゃ、やっぱり？」
　サキリの言葉に、フランチェスカは深く首肯する。
「ええ、今回の首謀者はステラの悪の感情が具現化した存在であるアルターエゴ、通称ステラ・オルタが引き起こした事件です」
「へぇ？　その口ぶりだと、色々と御存知のようで？？」
　骨削がニタニタしながらフランチェスカへ言葉を投げ掛ける。
　フランチェスカは気まずそうに、その場にいる者たちへ頭を垂れた。
「……騙すようなことをして申し訳ありません。ですが、この情報は本来、アステリズムのみが保有する最重要機密。そして、決して起こり得ぬはずの事象でした」
「詳しく、聞かせてくれ。そのために俺たちがここにいる！」
　風雲児は真剣な表情でフランチェスカへ尋ねた。
「このサジタリオ城下町を守りたいんだ！　ステラも俺たちが保護したい！　頼む、フランチェスカ！　教えてくれ！」
　風雲児の熱意は、フランチェスカの胸にしかと届いた。
「……分かりました。私の知り得る範囲でよろしければ、全てお話致しましょう」
　フランチェスカはグラスに注がれたソーダ水を一口飲んだ後、思い出すように語り始めた。