【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ツインズ・ノット・デッド

【開戦前・２（城下町）】

　ここは城下町に店を構える薄い本と画材の店ブラック・リキッド亭。
　オーナーの響タルトは店に駆け込むや否や、もう共同経営者の鎌八まもるを見付けると両肩を掴んで激しく前後へ揺さぶった。
「聞いて聞いて、ムッシュくん！　金貨5000枚だって！」
　あ、この子、瞳の中に金貨しか映ってねぇ！！
「ちょ、まっ、落ち着……！」
「え？　あ、ごめん、ムッシュくん！？」
　強制ヘッドバンキングで目を回す鎌八に気付いた響、慌ててシェイクを止める。
「……ああ、びっくりした。で、にゃんこたん。外の様子、どうだった？」
「大騒ぎだよ！　もうすぐこのお城に竜牙兵の大軍が周囲に押し寄せてきて、その首謀者がステラちゃんで金貨5000枚の賞金が懸けられる！　城下町は避難勧告が出てて義勇兵を募ってるんだって！」
「おいおい、にゃんこたん？　お昼近いのにまだ寝ぼけてるのかい？」
　オーバーに肩をすくめて、やれやれだぜと言いたげな鎌八。
　だが、響は広場でばら撒かれていた手配書を彼の目の前に突き出したのだ。
「これが証拠だよ！　ね、金貨5000枚って悪くないね。僕たちが捕まえてゲットしちゃおっか！　きっと、のんべえのステラちゃんならＢａｒアストラルに……？」
「いや、流石にそんなにイージーな展開じゃないと思うが？」
「だよね、そう簡単に来ないよね？　あははは……」
　鎌八に真顔で否定されて、思わず苦笑いを浮かべる響。
　ここで鎌八が腕を組み、急に険しい表情で考え込み始める。
「でも、はっきりしてるのは、ここサジタリオ城下町がピンチだってことだ。ここが危ないとなれば人ごとじゃない。オレ達の店もあるし、常連客だっている」
　よし、と一声と共に、鎌八はエプロンを装着。
　手を洗い、厨房に入る準備を整える。
「何をする気なの、ムッシュくん？　ステラちゃんを探しに行かないの？」
「いや、オレは此処でＢＬバーガーを焼く」
　説明しよう！
　ＢＬバーガーとは、ベーコンレタスバーガーの事であって、決して店主の響の趣味のＢＬ（ボーイズラブ）を暗喩しているわけではない。多分。
　本屋と画材の店だが、何故か食事も提供しているのがブラック・リキッド亭の特色だ。
　そして唐突に全自動人力バーガー製造マシーンと化した鎌八の姿に、響は首を傾げた。
「なんで今、このタイミングでＢＬバーガーを焼いてるの？？」
「なんでって、これから避難する人がいるんだろ？　なら食料と飲み物を店から提供しよう。こんな時、お腹が空いたら余計に不安になるからな？」
　茶目っ気たっぷりにウィンクする鎌八。
　だが手元は高速でバンズとベーコンを焼いてはレタスとソースと一緒に挟む作業をこなしている。
「たくさん作って、みんなを安心させたいんだ」
「優しんだね、ムッシュくん……！」
　厨房内に漂うグッドフィーリングアトモスフィア。
　響が次にとった行動は……。
　店の出入口へ猛ダッシュだった。
「んじゃ、僕、町外れに罠を仕掛けてみる！　生中でステラちゃん釣れるかな？　どう思う？　ムッシュくん？？」
「なんだって？？　どゆこと？　いま手が離せない！」
　鎌八は今、バンズを焼いている！
　１秒でも目を話せば焦げてしまうかもしれないのだ！
「だーかーらー！　僕、ステラちゃん捕獲用の罠を仕掛けてくるから、留守番よろしくね！　じゃあね！」
　響は瞳を金貨のように輝かせながら店の外へ飛び出していった。
　その背を眺める事しかできない鎌八は精一杯の声を張り上げる。
「ちょ、なに？　罠しかけにいくって？　すぐ帰ってきてよ！？」
　鉄板から上がるジュージューという音に慌てて鎌八は手元の作業に集中する。
　彼の戦いは、まだ始まったばかりなのだ！！

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