レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

「あなたは何者なんですか？」
御剣刀が招待状を得て真っ先に危惧したのは、ロゼッタが神魂を悪しき目的に使う者である可能性だった。
「あなたはひとではないでしょう。あなたが俺の守りたいものを害する存在でなければ、味方になってほしい」
伸ばした前髪から、鋭い眼光が垣間見える。年端も行かぬ少年のものではない、『剣鬼』の気迫がそこにはあった。ロゼッタが悪意に満ちたものだとなれば、彼はここで力を振るうこともためらわないだろう。ロゼッタもそれを理解した。
「私はただの目くらまし使いよ」
タロットカードを一枚放り投げる。宙に舞ったかと思えたカードは、一瞬でロゼッタの手のひらに戻っていた。
「占いは私自身がやっているわ。迷っている子たちを、助けたくて」
そう答えるロゼッタは頼りなげに見えた。刀は女が危険な存在でないことを知り、心から安堵する。
「聞いてください。今、寝子島では神魂が原因となっている事件や、それだけに留まらないできごとがけっこうな頻度で起きています。俺はそれを解決したいと思っていますが、そうした事件に関わるうちに、神魂の影響をなくす方法を見つけたいと思うようになりました。それを成すために、神魂のことを知ろうと思っています」
「神魂を消すの？　らっかみに戻すのではなくて？」
ロゼッタは刀を見た。そのまなざしは今までとは異なる光を帯びていた。明らかに何かを知っている。あるいは、何か神魂やらっかみについて、考えていることがあるのだ。
（この女性、どこまで知っているんだ……？）
「あなたと話すことで得られるものがあると、俺は思ってるんです。逆にあなたが話したいことがあるなら、聞きますし、知っていることは答えますよ」
「情報交換がしたいというわけね」
ロゼッタは答えた。瞳の激しい光はもう見えない。
「私は特別な情報を知っているわけじゃないの。この島の異変に引き寄せられて来たけれけど、それほど長居するつもりはない。ひとつ気になっているのは、落神と、ばらまかれた神魂、そしてもれいびの関係よ」
「関係とは？」
「『神魂を消そうとすれば、神も消えてしまうのではないか？』
『神魂を失ったもれいびはどうなるのか？』
――それがどうしても気になるのよ」

　刀はめくらましの花園を歩く。核心に至るものは何一つつかめなかった。魂と結びついた神魂を抱くもれいび。その魂の一部を失ったときどうなるのか。混迷は深まるばかりとなってしまった。
　小さなメモを見る。ロゼッタの連絡先だ。いざと言うときの綱として、刀はロゼッタと携帯の電話番号を交換しておいた。何か新しい情報を得ることがあれば、また出会うこともあるだろう。同志であることが確認できただけで今は十分だ。
　向かってくる少女に気づく。橘千歳だ。
「よう、橘……じゃない、千歳」
「えっ!?　御剣くん!?」
千歳、と名で呼ばれて、少女は心底驚く。
「な、ど、どうしたのよ。今までは橘って」
「ん？　いや、舞に会ってさ。どっちも橘だとややこしいから名前で呼ぶよ。千歳も、これからは俺のことは刀でいい」
「あ、そ、そう。姉と会ったのね……えと……刀、くん……」
「なんだ？　元気ないのか？」
鈍感とはこのことであろう。殺気と悪意の関わらぬことにおいては、刀の察知能力はこの程度だ。
「違うわよ！　みつる……刀くんが、変なこというから……」
語尾はすぼんでしまって、聞こえない。
「私、これから行くところがあるから！」
刀が止める間もなく千歳は足早に去る。
「何怒ってんだ……」