レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

「おやおや。暗くなっても繁盛してるねぇ」
ちらり、と小柄な姿がのぞく。髪は闇色、目も同じ色だ。ロゼッタを見止めてにやりと笑う。
「こんな夜中にチェシャ猫さん？　ようこそ」
「ほいほい。お邪魔するよ」
不思議の国の案内人に喩えられた少年、骨削瓢はひょいと身軽に椅子にまたがった。
「あっしねぇ。悪戯が大好きで」
「そんな感じねえ」
ロゼッタは皮肉っぽい表情を向ける。瓢が返すは不敵な笑み。
「でもさあっぱり、うまく行かないんでね。悪巧みって、そんなにいけないもんかねぇ、と」
テーブルに叩きつけるは、薄紫の招待状。
「そこにおたくのこれがやってきた。あっしはこれをチャンスと見たね。さあ、占ってもらおうじゃないか。あっしの悪戯はどう実を結ぶ？」
「つまり？」
「あっしが作ろうとしているのはツッコミ不在、自然の摂理も秩序も壊れた、ボケが世界を満たす混沌界さ。それを実現しようとしたら、うまくいくかい？」
「見事なトリックスターねえ……」
混沌界の具現のために邁進する未来。それを示すものは、The Artのカードだった。
「調和。バランス。あなたが混沌を目指しても、世界は自動でバランスを取ろうとするみたいよ？」
「だとしても、あっしはあきらめはしないけどね」
そういって、瓢は自ら、伏せられたもう一つの未来を表返す。The Fool、愚者のカードだ。
「踊る阿呆に見る阿呆ってことかねぇ」
「半分当たりね。それは、新しいスタートのカード。押さえつけても、邪魔しても、あなたは何度でも同じ企みを始める」
「ふぅむ。あっしが何度もやり直さなければならない理由は語ってくれるのかねぇ」
「愚者の行動は常識では予測不可能。理解されないゆえに愚か者と侮られて笑われるのよ。でもそれが新しいものを生み出す力となる」
「なぁるほど。もっと予想外に、もっとブッ飛んだことを企めばいいわけだ。いい案かもねぇ」
とっ、と音がしたかと思うと瓢の姿はもう椅子の上にはない。外れかけた扉の向こうから、声だけがした。
「お代は後払いでいいかい？　いつかきっと、あっしの理想、ブッ壊れた混沌の世界を見せてやるさぁ」

「……さて。あなたが本日最後のお客さまね」
瓢が消えた扉の影に向けて、魔女は言葉を投げかける。呼応して、緑色のコートに身を包む長身痩躯が現れた。
「名乗っていただける？」
「草薙龍八」
「占いを希望するなら、席へどうぞ」
ロゼッタは促すが、龍八は座らない。かつかつと歩み寄り、座る占い師の真横に立った。女の赤黒い右肩を覆うバンデージを龍八は見逃さない。
「野々ののことかいう落神を殺せるか？」
威圧するように、ロゼッタの頭上から声が降る。右手はコートのポケットに沈められたままだった。その手にはナイフが握られる。あからさまな殺気を隠そうともしていなかった。ロゼッタは無言でカードを繰る。
「あなたが落神を殺そうとする未来」
示されるのはThe Fool、愚者。
「すべてはゼロになり、新たなスタートを切る」
ロゼッタは機械的に、龍八の選んだ第二の札を開く。
「あなたが落神を殺さない未来。カップの4。不足、不満。あなたは世界に飽いてしまう」
「どういう意味だ。答えろ」
「もっと説明が必要？」
ロゼッタは顔を上げ、龍八を見つめた。ゆっくりと立ち上がり、真正面に立つ。
「あなたはなぜ落神を殺すの？」
「つまらない善意を押し付けるつもりなら、容赦しない」
女はかぶりを振る。
「落神を破壊すれば、すべてが元に戻ると本当に思っている？」
「……何が言いたい」
「神の欠片と結びついた魂を持つもれいびたちは、神が殺されたときどうなるのかしら。あなたが神をひねりつぶせば、神の一片である私たちの魂も同様にひねりつぶされる。そう考えたことはないの？」
「そんな証拠が、どこにある」
「あなたの落神殺しが最善である証拠はどこにあるの？」
その言葉を聞くや、龍八はナイフを抜き放つ。一瞬で刃の先はロゼッタの喉元に当てられた。
「あんたは何を知っている！」
「何も。神魂の性質について十分確かめもしないで、落神を消せばすべて丸く収まるなんて考えないほうがいい。このままでは、すべてのフツウを破壊するのはあなたになるかもしれないのよ？」
長い沈黙の後、ロゼッタの喉元から刃先が取り除けられる。封筒をテーブルに叩きつけ、龍八は背を向け去って行った。
「あなた、世界の均衡を取り戻したいだけなのね。でもそのやり方では――」
扉の向こうの女の声は、もう聞こえない。龍八は闇の中、心の中で繰り返し続けていた。
（そんなわけがあるか。……確かめなければ。もれいびたちの心を食い荒らす、神魂の仕組みについて）

「こんなものか」
旅鴉月詠のアトリエ。青いバラに黒い髪。妖しく美しい魔女の微笑が描かれていた。

日々の勉強に勤しむ八神修の携帯が鳴る。
「あいつめ……さっそくサティのことで相談か？」
頼られるのもいいものだな、とくすりと笑う。

その一方で、己のあり方を揺るがされる者、好敵手の登場に闘志を燃やす者もいた。
それぞれの思いが行き交った『レディ・ロゼッタの未来観測』は、その夜ひそかに姿を消す。人の迷いが降り積もったとき、再び同じ場所に現れるだろう。

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あとがき

担当マスター：清水るね
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お疲れさまでした。これにて「レディ・ロゼッタの未来観測」完結です。
もっともっと、もっと皆さんの心情や占い結果について書きたかったのですが、かないませんでした。ひとえにわたしの力不足、どうかお許しください。

今回の占いはガチです。脚色が一切ありません。シャッフルは丁寧に行い、ひとりひとり時間を空けて行いましたが、それでもあちらこちらでかぶるカードが出てきてしまいました。占う内容やお相手によって、同じカードでも読み方が若干違ってきます。その差をお楽しみいただければ幸いです。

なお、わたしの使用しているタロットカードは Thoth Tarot（トートのタロット）と呼ばれるもので、広く知られるタロットカードの大アルカナとは一部のカードや番号が異なっています。そのため、見慣れないカード名、見慣れない解釈があるかもしれません。

ロゼッタは今後NPCとして登場するかどうかは未定ですが、皆さんが会って、見て、話してわかったデータを列挙いたします。
《レディ・ロゼッタ》
髪と目は黒。日本人？ 30代前半に見えるが、実際はもっと上。身長はヒール込みで175cmぐらい。
もれいび。能力の詳細は不明だが、本人が言うには「目くらまし」。
商売柄、神秘的な雰囲気を装うが、実は子供っぽい面や茶目っ気たっぷりの面も持つ。
恋の成就とは無縁に歳を重ねたいわゆる喪女（もてない女）のため、カップルをみるとひがむ。

それでは、また次のシナリオでお会いいたしましょう。
よろしければコメントページにご意見、ご感想、叱咤などお書きください。必ずや次回以降の参考にいたします。

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