レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

　次の少女はとにかく朗らかだった。
「招待状ありがとう、ロゼッタさん。すごく雰囲気のあるお誘いで、なんだかドキドキしちゃった」
「来てくれてありがとう。お名前は？」
「桜庭円だよ。きれいな場所だよね。占い以外でも遊びに来たいかも」
「ここがある間は、いつでもどうぞ。昼間は花畑を気に入って、ずっと遊んでいた人もいたのよ」
「その気持ち、わかるよ。これって、ろっこんなのかな？　あなたももれいびなの？」
ロゼッタはうなずく。この招待状は、もれいびと、もれいびと深い縁を持つひとだけに届けられたのだ。
「そっかあ。ぼくも、変な能力持ってるんだ。危険なことしたら、運がよくなるの」
円の能力『ブレイブハート』は確かに強力ではあるが、剣の刃先を渡るような危うさを内包している。だが円はあくまで軽く語った。
「ぼくの占いはね……ロゼッタさんとお友だちになれるかどうか！　それをお願い」
「あら。そんなのカードに聞くまでもないわ。この館に来てくれた人とは仲良くなれるご縁があるのよ。でもどうして？」
「お代は気持ちでいいって書いてあったでしょ。お金じゃなくて、この人は、なにがほしいんだろう？　って考えた。それは善意なのかなって」
「だからね、ロゼッタさんがどんな人か知りたくなった。占うことは、ロゼッタさんにとってどんな意味があるのかって」
抱えていた花の鉢をテーブルの上に置く。紫のベルベットの上で、紫の花弁が揺れた。
「それと、どうして占いは二択なのかなって。迷っている人の背中を押して、前に進んでほしいからじゃないのかなって」
「あたり。占いはただのきっかけ。占い自体はごく普通なのよ。ただし、ちょっと仕掛けがあるけど」
ロゼッタは自分でカードを一枚選ぶ。大アルカナ、太陽のカード。絵から抜け出した太陽は、さんさんと光を注ぐ。ロゼッタがカードを伏せると幻影の太陽はすうと消えた。
「そっか。ここに来る人たちが前向きな気持ちで帰ることができて、目標や夢に向かって進もうって決意できたなら、きっとそれはあなたのおかげ。誇っていいと思うよ。ぼくからも、ありがとう」
「私からもありがとう、円ちゃん。今日はあなたたち若いもれいびに教えてもらってばかりだわ」
座っていても身長差が分かる背の高い女占い師に、円はテーブルの鉢を手渡す。
「鉢のロゼッタ、紫のバラ。このお部屋には合うと思うな。これがぼくの気持ち」
「ありがとう。太陽のカードの円ちゃん。光に照らされて、あなたも、あなたの大切な人も、健やかに育ちますように」

　夜が始まる少し前には、決意を秘めた少年が。神秘めいた招待状も、幻想的な花畑も、彼の心を浮つかせるものではなかった。
「初めまして、ロゼッタさん。俺は占いを受けに来たんではないんです」
「あなたは？」
「御剣刀」
「選択の手伝いはいらないと？」
「仮に俺の選択が悪いものであったとしても、あがいた分、よい選択をした時以上の結果を引き寄せられるかもしれない。……いや、俺はそうしてみせる。だから俺は自分で選択します」
「そう。では、私になんのご用？」