レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

　次に入ってきたのは旅鴉月詠、世に満ちるフシギをありのまま認める少女だ。
「初めまして、レディ。招待状を受けたのでお邪魔してみた次第だ」
「来てくれてありがとう。今日はよろしくね」
「うん。よろしく」
スケッチブックを小脇に抱えたまま、月詠は席に着いた。
「占いたいことはもう決めているの？」
「内容か、そうだな。『フシギを記録することは是か？』でお願いしたい」
月詠は占いよりもカードの絵柄が気になった。絵札か大アルカナは出ないだろうかと期待して見守る。
「ワンドの1。野心と想像力。分かりやすく言うとやる気ね」
当然の結果だ。月詠はこれからもフシギを絵として残して行くつもりなのだから。今日の占いもただのついで。彼女は新たなフシギに出会うことが第一目的なのだ。
「Lust。11番のカード、欲望」
裸身の乙女がライオンにまたがり、その口に手をかけている絵柄だ。一糸まとわぬ乙女の体を、豊かな金髪が覆っていた。幻の乙女はちらりと月詠を見ると、腕全体を猛獣の口へと突っ込み、余裕綽々の笑みを浮かべた。
「これはしたいことをすればいいじゃない、っていうカード」
幻の消えたカードを、ロゼッタは指でつまみ上げる。
「そしてあなたの顔には、言われなくてもそうするって書いてあるわ」
（見抜かれているか。やはりな）
「よい忠告として受けておくよ。占いとは天気予報のようなものだろう。必然か偶然かは受け取り手次第。さて、私はこれをお代として持参した。受け取ってもらいたい」
スケッチブックにはさんでいた一枚の絵を破る。封印された平面から現れたのは、花。青いバラと、バラのポプリが女占い師に手渡される。
「レディの名がロゼッタストーンと関連するのか、単に花にちなんだ女性名なのかは分かりかねるが、いずれにしてもなにか不思議なものを感じた。だからこれを」
青いバラの花言葉は『夢』そして『奇跡』。
「ぴったりだろう？　その奇跡が善きものであることを願おう」
不可思議のレディはにっこりとうなずく。

「レディを描いてもよいだろうか？　五分でいい。それでラフは描きあがるから」
ロゼッタは月詠の申し出を受け入れた。バラを手に、椅子にゆったりと座る。
「レディ、この絵を完成させたらあなたに贈ろう」
「あら、いただけるの？　うれしいわ」
「だってレディ、あなたはこのタウンに留まらない」
言い切る月詠にロゼッタの眉がふと上がった。
「そういうものだろう？　魔女は秘密主義、俗世と交わらない者なのだから」
「ふふ。もう少しだけ、ここにいるけどね。まだ今日は、会いたい人がいるの」
「人生は一期一会。レディにいい出会いがあるように」
「必ず島にまた来るわ。案外すぐ戻ってきたりしてね」
「魔女は気まぐれ、か？」
「そう。俗世なんて、って顔をしているのに、にぎやかなところが気になるのよ」
たちまち画用紙の上には、ロゼッタの美貌と言い切れない、しかし独特な魅力を感じさせる姿が現れた。
「完成させたら置いて行く。それも私の気持ちと思ってくれ。縁があれば、友人としてまた会おう」