レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

　時子の後に部屋に入った佐藤英二は、物珍しげに首をめぐらし不思議な絵柄のタペストリーを眺めた。
「ふふっ。気が済むまで眺めたら、そこにかけてくれる？」
声をかけられて、初めて薄暗い室内に人がいたことに気づく。英二は驚き飛びのいた。
「私がロゼッタよ。はじめまして」
「あ、ど、どうも。佐藤英二です」
英二は目の前の女占い師をまじまじと見る。魔女っぽいメイク。それっぽいドレス。花のヘアピン。よくよく見つめて、まあいいか、という結論を出した。占い師なんて他に見たことがないのだから。
「英二くんね。どんなことを占いたくて来たのかしら？」
「ええっと。昼食のメニュー、何がいいかなって」
聞いたとたんに、ロゼッタは派手に笑い出した。これには少々英二も憮然とする。
「な、なんですか!?」
「あはは、あは、あは……ごめんなさい、意外すぎて……はぁ、あなたすごいわ」
英二は仕方なく大笑いが収まるのを待った。
「そんなにおかしかったかなぁ」
「いいえ。その無欲に胸打たれたのよ」
言ってることは格好いいけど、大笑いしただけじゃないか……と、内心で思う。かといって、占いの内容を変えるつもりもなかった。
「普通の男子高校生が気にすることなんて、この程度じゃないかな」
「そう思えることが、すでにすごいんだけど」
でもこの占いは選択式なのよ、と説明されて、英二は仕方なく『いつもの安くて量の多いラーメンか、違った選択をしてみるか』の二択に絞る。
「コインのナイト。いつも通りでよさそうね。ラーメン一つに勝利を表すカードがついてくるということは……明日、特別にいいことがあるのかも」
ラーメンどんぶりを手にした甲冑の騎士という、あんまりな幻影が投影される。
（サービス券がもらえるとか？　もやしが大盛りになるとかかな？）
英二の想像は現実的かつ小市民的なラインからはずれることがない。
「はい、お次。ラーメン以外を選んでみれば……コインの5。絶望、浪費、ごまかし。いまいちだけどお金がもったいないから完食。まあまあだったよと自分をごまかす羽目になるのね……」
（勝手にストーリーができ上がってる……）
「あー、えと。つまり、明日もラーメンがいいってことだと」
「カードの神さまはそう仰せよ」
芝居がかった調子で言うロゼッタ。いつも少しだけ迷ってしまうからわざわざ尋ねたのに、と英二は結果にやや失望する。でも、明日の昼食はいつもより楽しいのかもしれない。英二は前向きに解釈することにする。
「お代はこれでいいですか？」
手渡されたのは千円札。ロゼッタはそれを受け取ると、一つ問いを投げかけた。
「このお金は英二くんのお小遣い？」
「以前引越しのバイトをしたんで、その報酬です」
「労働の対価というわけね。ありがたくちょうだいするわ」
ロゼッタは楽しげに手を振り、英二を送った。