レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

　次に青い扉を開いたのは八十八旗信彦だった。さわやかに微笑むその姿は、まさに若き紳士。占いに特に興味があるわけではないが、女性からの招待とあらば応えるのが務めと本気で思っていた。
「やあ、レディ。君からの招待とあっては、一人の紳士として断るわけにはいかない。だからこうして参上したってわけさ」
「よくいらっしゃいました。お待ちしておりましたわ」
ロゼッタも茶目っ気たっぷりに笑顔で答え、貴婦人の礼をした。互いに自己紹介を済ませて、席に着く。
「あなたの占ってほしいことは何かしら？」
「『レディに優しい紳士』を目指して行動してきた俺だけど、どうもまわりからはチャラいとか、プレイボーイとか呼ばれてしまうんだ。恋人もできたことだし、そろそろ態度を改めるべきかと思ってね」
「ふむふむ。それで、本当は？」
微笑みとともに話を聞いていたロゼッタは、いきなり核心を突いてきた。
「参ったな。えーと……最近、ちょっとしたきっかけである女の子からの好意に気づいてしまったんだ。できれば想いに応えてあげたいところだけど、俺も恋人がいる身だから、気づかないふりをしているところでさ」
女占い師は黙ってうなずく。信彦は言葉を続けた。
「もちろんいちばん大切なのは、恋人だよ。でも想ってくれる娘もすごく大切だから、悲しませたくないんだ。俺の甲斐性と覚悟さえあれば、本人たちの了承を得ていっそ二人とも……！　なんて思うけどさすがにマズイよねぇ？」
「マズイわねぇ。占う以前に、人として」
ロゼッタの目が一気にジト目になった。どっちつかずにしておくとどうなるか、思い知ることになるわよ、と低いトーンで告げる。ところがカードは誰もが予想しない可能性を示し始める。

今まで通りの紳士スタイルを貫く信彦の未来。
「コインの1……!?　恋愛成就、充足、幸福……」
恋人一人に心を注ぎ、他の女の子を自分の世界から切り離す未来。
「The Star。星が出たか……」
ロゼッタは頭を抱えている。
「どういうことなんだい？　レディ」
「あなた……異性に関しては、常軌を逸した幸運の星に守られているみたいね。このカードが示すのは自信。明るい未来。コインの1だってそう。あなたが異性への接し方を変えようが変えまいが、あなたは同じように愛される。女の子たちの愛情は醒めることがないみたい」
女の身から言わせてもらうと、やな人徳ねぇ、とひとつため息。怒りたくても怒れないといった複雑な表情で信彦を見る。
「周りがどう言おうと、あなたはそのままでいいのじゃないかしら。下手な策を弄すると泥沼よ」
「そうかい。相談に乗ってくれてありがとう、レディ。今の課題を自分の中で整理できた、と思うよ」
バラを差し出し、キラリと笑う。
「お礼に食事でも一緒にどうかな？」
――この男。並の者ではまねできない、稀なる愛され体質の持ち主であった――