レディ・ロゼッタの未来観測｜リアクション

レディ・ロゼッタの未来観測

　花畑に一人の少女がずっといることはわかっていた。小屋に入らず、それぞれ美しく咲く花を大切そうに見つめ、写真に収めたり、香りを楽しんだりもしている。楽しげに花園でくるくると回る少女をロゼッタは微笑ましげに見つけた。少女、椿美咲紀は視線に気づかない。
「ふふふ、たのしー！　お花がいっぱい！　きれいー！」
『レディ・ロゼッタの未来観測』は、美咲紀の心をとらえて離さぬ魔のスポットであったのだ。占い好きで花も大好き。そんな彼女の元に招待状が届いたのは、必然であったのだろうか。
「はうわー！　私の占い好きが、占い師さんたちの間にも広がっているんじゃないかしら！」
美咲紀の心はバラ色に染まり、授業も食事も上の空。放課後までよくぞ我慢できたというほどに、この場所への訪問を楽しみにしていたのだった。
「うぅ、早く占いしてもらいたい……けど、この花畑、とってもきれいなの。もうちょっと見てから……！」
花を見ていたい美咲紀と、占ってもらいたい美咲紀。自分との戦いをもう何度繰り返しただろうか。ようやく、太陽がだんだん下に移動していることに気がついた。
「お花はまた後でゆっくり見ればいいよね。そろそろ小屋に入らなきゃ」
たたた、と駆け出し、扉の前でまた少し後戻りする。しゃがみこんで、ひときわ大輪で咲く花に笑いかけた。
「お花ちゃんたち。とってもきれいね！」

「わぁ。かわいいお家！」
この場所に来てからというもの、美咲紀のテンションは上がり通しだ。ほのぼのとした待合室の雰囲気、うって変わって神秘的な占い部屋。ロゼッタと出会うなり、かわいらしいフラワーアレンジメントを差し出した。
「これは私の気持ちなの。お花は人の心を癒してくれるでしょ。占い師さんもお花たちに癒されてね」
「あら、ありがと。早速飾らせてもらおうかしら」
花があるだけで薄暗い部屋は、少し明るさを増した気がした。
「占ってほしいのは進路問題なの」
夢見る乙女、といった風の彼女の口から出たのは至極現実的な言葉だった。
「もともと実家の都合で神道系に進むつもりだったんだけど、寝子高に来てから、お花のことをもっと勉強するために大学を選ぶことも考え始めたの。でも、英語とか数学とか苦手だし。生物ではそういうのが必須だし。それで好きなこと勉強できる機会を減らしたくないし……理系の進路を選んだら、受験とか大学とかどうなるか占ってほしいです」
美咲紀はぺこりん、と頭を下げる。大きなポニーテールも一緒になって礼をした。
「結果がどう出ても、苦手科目の勉強もがんばります。でも進路のことは早めに決めなきゃって思うので。よろしくお願いします」

「The Hermit。隠者ね」
「はうー。ひきこもっちゃうんですか？」
「違う違う。知識を得るため動きなさい。自分の意思で行動を起こしなさい」
「カードは進路を応援してくれてるっていうことですね！」
ロゼッタはうなずいた。次に返したカードはワンドの4。安定、安全、安心がキーワードだ。努力の大学受験か、一度は心に定めた神道の世界か。やはり最後に選択すべきは美咲紀本人だ。
「むむぅ～。どうしようかなぁ。もう少しお花さんたちと語らってから決めるの！」