愛ある全てのものへのダンジョン｜リアクション

愛ある全てのものへのダンジョン

■厚さ０．２６ミリの夢
　愛あるすべての者へ。
　愛あるすべての者へ。
　これは。
　あなたの愛を証明するための冒険です。

　真っ白な空間から、ふわりと大地に降り立った。
　白真白は目を開き、眼前に浮かぶ物体に微笑んだ。
　厚さ０．２６ミリの長方形。
　吹けば飛ぶような軽さで、まち針一本防げやしないもろさで、しかし無限の夢につながる物体。
「私の愛を見せつけてみろと、そういうことだね！」
　『カード』を掴み取ったその途端、真白の手には美しい蛇腹の剣が生まれていた。

　カードゲームに価値を見いださぬ者は、この紙片に数千円の金銭的価値があることに疑問を覚えるという。
　だがどうだろう。一万円札とてちょっと丈夫なだけの紙片である。人間だってタンパク質の塊だ。
　だが人間というタンパク質の塊は、出生したその瞬間に無限の価値をもつという。
　しかし数百円のブースターパックを買い、袋を開き、まだ誰も手で触れていないカードを引っ張り出すあの瞬間に、あの紙片に無限の価値が生まれていた。
　真白はその瞬間を味わうたび、無限のなにかに触れていた。
　それを夢とよび、その夢の根源を、愛と呼べた。
「ＴＣＧで大切なことはいくつかあるんだよ」
　ピラミッドを突き進み、次々に襲いかかるミイラを蛇腹剣で切り裂いていく。
「そのうちの一つが環境を知ることなんだよね。皆何を使うのか、対応策は何か。目の前に伏せてあるあの束は、何を目的としているか」
　棺が開くその前に、蛇腹剣が八つ裂きにした。
「トレンドはほとんど決まってる。だから最初の数枚で分かる。逆に言うなら、それを隠す余裕はほとんどの場合、ない」
　足が何かのスイッチを踏んだ。
　剣を振り、側面から飛び出す槍をカウンターでへし折った。
「デッキから望んだカードが手札にそろうことは少ないけれど、『どんなふうになってもいいように』組むことはできる。カードを血と肉にするんだ」
　広い部屋に出ると、巨大なミイラが掴みかかってきた。
　相手の一歩目に大きく踏み込み、ローリングをかけて股下をくぐり抜ける。
「尖ったデッキほど、弱点は明確だよ。それを相手の展開より先につくことができたなら――」
　蛇腹剣が長く伸びて、ミイラの足首に巻き付いていた。
　大きく引く。
「もうその勝負は、勝ちってこと」

　長く長く続く通路の先。
　そこには、真白がつい最近新しく組んだテストデッキが並べられていた。
　考えたコンボはうまくつながるだろうか。それを見た相手はどう思うだろうか。
　もっといいカードに格上げできるだろうか。それともこれが最良だろうか。
　見るだけでわき上がる、夢の時間。
　ああ……。
「試す朝が、待ち遠しいな」