愛ある全てのものへのダンジョン｜リアクション

愛ある全てのものへのダンジョン

■人生は無限コンテニュー
　愛あるすべての者へ。
　愛あるすべての者へ。
　これは。
　あなたの愛を証明するための冒険です。

　『ゲームなんかして何になる』。誰が言ったか言われたか、脳の片隅にこびりつく言葉があった。
　仙藤蒼がそれを明確に答えることが、あったのか、なかったのか。
　少なくとも今、ゲームを辞めようという気にはなれない。
　たとえ灼熱の炎に焼かれようともだ。
「けど本当に焼かれると、ちょっと考えちゃうんだけど！？」
　マグマと火柱と火を噴くドラゴンに囲まれて、仙藤蒼は絶叫した。
　なんでこんな目にあっているのか、少し遡って語るとしよう。

　夜中までゲームをして遊ぶことがある。今夜がそうだった。
　無人島に飛び込んで最後の一人になるまで戦うゲームでニャン勝つの限りを尽くしていた結果、極度の集中状態とその開放感からどっと眠気に襲われた。
　今眠ったらゲームの夢を見そう。
　そう想いながら目を閉じると、真っ白な空間にいた。
　すぐさま草地に放り出され、愛がどうだとなにかが言う。
　蒼にとって愛という言葉が一番しっくりくるのは、コンピューターゲームだ。ゲーム愛。愛するゲーム。愛のあるゲーム。
　世界を、人生を熱中させてくれる、素晴らしい楽園。
　迷うこと無く光るゲームコントローラーを握りしめた所、現われたのは涼しげなワンピースだった。水のように冷たく、透明で、ふいていもいない風に靡いている。
「ロードオブニャーンの装備だこれ。良かった、フライパンとかじゃなくて……」
　などと思いつつ、ぱっと手を翳せば無骨なアサルトライフル。
　そうそうこうでなくては。
　蒼の視界が急に広く、そして耳がホコリの舞う音すら聞き分けた。
　鋭敏になっていく感覚。ずっと遠くの足音が聞こえるかのようだ。
「これなら負ける気しないわ。いっちょ『ニャン勝つ』しときますか！」

　扉に手をかけ、突き進み、そして今である。
「熱っ、熱……くない？」
　美しいコンピューターグラフィックで描かれたドラゴンがはき出す炎も、周囲を吹き上がる火柱も、蒼を攻めるものだ。
　しかし彼女が纏った衣は、それをものともしなかった。
　社会に出ればゲームがうまくて褒められる場所は少ない。姉のように社交的で勤勉であれば、きっと大人たちは褒め称えたろう。
　けれど蒼はこの生き方を選んだ。この楽園を選んだ。
　プロゲーマーになって億の金を稼ごうなんていうんじゃない。
「こういうの吹き飛ばす、『こいつ』が大好きで仕方ないのよ！」
　アサルトライフルで右から左へ薙ぎ払う。
　ドラゴンも、マグマ、岩の塊も、全てがめちゃくちゃに粉砕されていった。
　あがる煙のなかをゆけば、黄金に輝く宝箱。
　中身が空っぽだということを、蒼はなんとなく知っていた。
　触れれば罠があることも、蒼はとっくに知っている。
　けれど……。
「触れなくっちゃ、味わえないのよ」
　ゲームの先にある、あのスリルを

　蒼は知っていた。
　このスリルが、カタルシスが、冒険の先にある『最大のお宝』だということを。