奇店綺譚｜リアクション

奇店綺譚

「そう言えば、能美子はどうしてそんな格好してるの？」
２人はキャットロードの両脇に立ち並ぶ店を、一軒一軒、『喫茶店』と一致するものは無いかと探しながら歩いていた。
その検分もキャットロードの中ほどまで終わった頃、るるかが能美子に尋ねた。
「別に今日に限ったことじゃないけど、制服で夜中うろついてたら確実に補導されるでしょ。だから化粧して、服も髪型も大人っぽくして、大学生くらいに見えるようにしてたの。こういうことは割と得意なのよ。まあ誰かさんには見破られちゃったけど」
そう言って能美子は不機嫌そうな顔でるるかを横目で見やる。
「そんな褒められると照れちゃうなぁ」
「別に褒めたつもりは無いわ……」
「でもそっか、補導されるなんて考えてもみなかったけど、そうだよね。あたしもお化粧と髪だけでもやっておこうかな……」
そう言うとるるかは、太い三つ編みに結われ、まるで獣の尻尾のように揺れている自身の赤毛の穂先をいじる。
「間違いなく制服でバレると思うわよ」
「そうだよね」
るるかはうーん、と首をひねった。
そのふらふらとした足取りに、能美子は注意を促す。
「ちょっと、ちゃんと前見なさいよ。危ないわよ」
「え、何……きゃっ」
よそ見をしていたるるかは、案の定人にぶつかってしまう。
ぶつかったはずみでよろめきながらも、るるかは咄嗟に謝る。
「あっ、ごめんなさい！」
「いや、こちらこそ申し訳ない」
ぶつかられた相手も振り向いて謝罪の言葉を述べた。
「怪我は無い……か？」
「あ、はい大丈夫です……って」
２人はたっぷり３秒は見つめ合っていただろうか。
長い沈黙。
振り向いた身長の高い男性は上下揃いのスーツを着、短めの黒髪をかっちりセットしている。
さらにメガネをかけており、その奥に光る眼光は鋭い。
それは寝子高生であれば誰でも知っている人物だった。
「桐島センセぇ！？」
るるかは素っ頓狂な声をあげた。
「なんだ、最上じゃないか。こんなところで何をしている」
「えーっと……」
「なんだ、どうかしたか桐島」
どう言い訳しようか冷や汗を垂らしながら考えていたるるかの目の前に、さらに大きな影がぬっと姿を現した。
「ああ吉田先生。すみません、ウチの生徒が後ろから」
「なにまたか？」
「しっ、失礼します！」
「あっ、コラ馬鹿！　離せ！」
ただでさえ背の高い桐島先生に加え、さらに縦にも横にも大きな吉田先生が加わったことで軽いパニック状態に陥ったるるかは、くるりと踵を返し彼女の後ろで無関係を装っていた能美子の手をひっ掴んで駈け出した。
「待て、逃げるんじゃない！　くっ、吉田先生行きましょう」
「おう」
「すまん、桜。気をつけて帰るんだぞ！」
桐島先生は振り向き、背後にいた白い髪の少女に声をかけると、るるかと能美子を追って走り出した。
４人とも走り去り取り残されたその少女、桜月はぽつりと呟いた。
「おなかすいた」