「入ると幸せになるお店ぇ?」
シダ 美穂戸はすっとんきょうな声をあげた。
昼休みの教室の中、窓際で2人の女子が話をしている。
空音の隣に座っているのは
緑野 毬藻仔だ。
「ん~、いかにもマユツバな話だね」
「あれ、シダさん知らないの? 今うちの学校で結構な噂になってるのにぃ」
「ヴァン、知らなかった。なにそれ?」
今、寝子高生の間で噂になっている『幸せになれる喫茶店』。
毬藻仔曰く、その店は寝子島の『どこにでもあって、どこにもない』のだそうだ。
というのも、その店を見かけたという情報が島中に散らばっているためだ。
見たという生徒が話す特徴は、『窓ひとつない真っ白な外装』『同じく真っ白な扉』『扉に掛けられた金属板が唯一の装飾』『金属板には「FABULOTHECA」と刻まれている』というもので、不思議なくらいに一致していた。
ここまでの話でも十分怪しい噂だったが、入れば幸せになれるという部分がそれに拍車をかけていた。
「まるで雑誌の広告。効果には個人差がありますって感じ?」
「それについては証言者がいるんだよぉ」
毬藻仔の言葉に美穂戸は少し意外そうな顔をした。
こういう噂は具体的に誰が、という話は出てこないのが常である。
「実際に入ったっていう人がいてねぇ、うちの生徒なんだけど、その人が言ってたんだって。新月の夜、シーサイドタウンで見かけて入った、そしたら幸せになった、って」
ふうん、と美穂戸は相槌を打った。
「じゃあ探してみよっか、もこもこ」
「シダさんならそう言うと思ってたよぉ」
毬藻仔は見越したように言う。
美穂戸は椅子から腰を上げた。
「まずは捜査の要、情報収集からだね! いこっ」
「うん、行こう」
そういうことになった。
所変わって職員室。
「――最近なにやら夜中に出歩く生徒が増えているようです」
桐島 義弘はそう言ってメガネの位置を直す。
昼休みの職員室。
義弘が話しかけるのは
吉田 熊吉。
風紀委員会の担当教師が生活指導担当の教師と話をしているのは、なんとなくものものしい雰囲気だ。
「出歩くだけなら良かったのですが、近隣住民に迷惑をかけているという話もありまして」
義弘の言葉に熊吉は眉根を寄せた。
「そりゃまずいな」
「ええ……ですから未然に防ぐためにも、私たちで夜間の見回りをしようと思いまして。時間は閉門後19時から22時ということでどうでしょう。吉田先生は娘さんのこともありますし、無理にとは言えませんが」
「いや、大丈夫だぜ。仕事を終わらせて帰るのがいつもそのぐらいだからな」
「それは良かった。では早速今夜から始めましょう。そうですねまずは――」
そう言って義弘はあごに手をやって少し考え込む。
「――シーサイドタウンからでしょうか」
「よし」
熊吉は鷹揚に頷くと椅子から腰を浮かした。
「じゃあまた放課後な」
まるでそれを合図にしたように、午後の授業の予鈴が鳴った。
ナマステ。
舌の根も乾かぬうちに三三三です。
今回は皆さんに『幸せになれる喫茶店』を見つけ出していただきたいと思います。
噂の真相を確かめ、みんなでしあわせになりましょうよ。
○注意点○
見回り教師コンビに捕まると自宅待機になってしまいます。
今回桐島・吉田両先生は夜間外出している生徒をお説教の後自宅へ送り届ける、いわばお邪魔キャラとして皆さんの前に立ちはだかります。
夜出歩く場合はご注意ください。
ただしこの情報は生徒に知らされてはいません。
それを踏まえたアクションをよろしくお願いいたします。
捜索の仕方は皆さまの自由です。
グループを組んで探すもよし。
ひとりひとりバラバラに探し回るもよし。
いずれにしても勝利のカギは情報力です。
……先生たちにお叱りを受けたいという人は、あえてやんちゃをするのも良いかもしれません。