奇店綺譚｜リアクション

奇店綺譚

「ええっと」
ブリジットが唸った。
「この場合、賭けはどうすればいいのかしら？」
３人は真っ白な壁の前に立っていた。
否、壁ではない。
よく見ればその壁には簡素なドアノブが付いている。
扉だ。
「往生際が悪いわよ、ブリジット。『お店があるかないか』で賭けをしたんだもの、私の勝ちだわ」
その真っ白な扉には『FABULOTHECA』と刻まれた金属板がかかっていた。
噂の店だ。
３人は辿り着いたのだ。
「確かにね。でも閉まってるじゃないの……」
そう言ってブリジットはドアノブを引っ張るが、扉はぴくりとも動かない。
「やっぱり新月の夜じゃないと駄目だったのかな？」
すばるは空を見上げながら言った。
細い月が路地裏のビルに突き刺さるようにして在った。
「こんな結末じゃ私も気持ち良くケーキを奢れないわ、舞！」
「じゃ、楽しみにしてるからね、ブリジット」
「うぐぐ」
目の前の店よりも賭けの行く末に興味があるらしい女子２人の言い合いに、すばるはひとつため息をついた。
「もうやめなよブリジットさん。ケーキならまた皆で食べに行こうよ」
「なによ！　すばるには関係ないじゃない！」
「勿論僕の奢りでね」
「さすがすばる！　男の中の男ね！」
さすが『めい』探偵なだけあって変わり身は素早いようだ。
「意地汚いわよブリジット。新井さんも、賭けは私達の間の約束なんですからそんなの申し訳ないですわ」
わいわい言いながら３人は帰路に就いたのだった。