奇店綺譚｜リアクション

奇店綺譚

「それじゃあ情報収集といきましょうか」
レストランを出た３人は再びホテルのロビーに出、待合用のソファに陣取っていた。
折りたたんで持ってきていたのだろう、ブリジットが鞄から地図を取り出す。
「さっきはブリジットさんに止められて出来なかったからね」
「当然よ」
「ねえブリジット、その地図何に使うの？」
「ああ、これはね」
そう言ってブリジットは膝の上に畳んであった地図を広げる。
それは寝子島の全域地図だった。
さらに彼女は鞄の中から赤のボールペンを取り出した。
「噂では色んなところで見かけられてるのよね？　その場所を地図上に書き込んでいけば噂がどこに集中しているか分かるでしょ。印が一番沢山付いたところが第一候補ってこと」
「なるほど、さすがブリジットさん」
「すばるもミステリ研ならこのくらいは考えてほしいものだわ」
「じゃあ早速調べましょうか、ブリジット」
すばるはもう一度携帯を取り出した。
「調べ方も色々あるけど、噂って事ならねこったーが一番かな」
そう言ってすばるは携帯画面上のねこったーアイコンをタップした。

結果的にブリジットの赤ペン印は意外なほど広い範囲に付くこととなった。
旧市街、星ヶ丘、シーサイドタウン。
そのいずれにも目撃情報があったのだ。
しかしその地区内に注目してみれば、おおよそ印の位置はまとまっていた。
旧市街は駅前裏通り。
星ヶ丘は星ヶ丘教会付近。
シーサイドタウンはキャットロード周辺に、それぞれ集中している。
唯一、九夜山にはひとつも印が付いていない。
「さてどうしましょう。大体３ヶ所に散らばっているみたいですわ」
「うーん、さすがにこれを全部一晩で回るのは無理よね。本当にあるかも分からないし。ああ、だんだんめんどくさくなってきたわ」
「あら、それじゃあ賭けは私の勝ちねブリジット。ケーキ楽しみにしてるわ」
舞はそう言って笑う。
賭けとは、舞とブリジットの間で『喫茶店』の存在するしないを巡って行われているもので、負けた方が高級ケーキをおごるというものだ。
「でもこれで大分絞り込めたよ。それに、多分本当にあるお店だと思う」
「どういうことよ？」
ブリジットがむっとして訊いた。
「見てよこれ。九夜山にはひとつも印が付いてない。人が住んでいる場所にしか目撃情報は無いんだよ」
「どういうことですか新井さん」
「はっ、分かったわ！」
ブリジットが急に立ち上がって叫んだ。
「ブリジットさんも気付いたんだね。そう、つまり……」
「犯人は車を運転できなかったのよ！！」
「人間が人間相手に商売してるってこと……ってなんだって！？」
すばるとブリジットの推理はものの見事に食い違う。
「さすがの迷探偵っぷりね、ブリジット」
その姿を見て何故か舞は嬉しそうだ。
「でっしょー？　私、名探偵でしょー！」
「ブリジットさん、褒められてないから……ていうか犯人って」
「へ」
「で、新井さん。もう一度言ってもらえますか？　よく聞こえなくて」
「え？」
自信満々だったブリジットは自分の推理が見当違いだということに気付いていない。
「うん。人が住んでる所にしか目撃情報が無いということは、人間が人間相手に商売してるってことだって言ったんだ」
「そんなの当たり前じゃないの」
「うん、当たり前なんだ。だからこそ、存在そのものが疑わしいような店じゃなくて、普通に実在してるものだと思ったんだよ」
「なるほど。新井さん、素晴らしいお考えです。これはもうケーキは私のものかしら？」
「ま、まだ本当に見つかるかどうかは分からないじゃないっ」
「そうだね、ブリジットさん。だから探しに行くんでしょ？」
すばるは立ち上がってそう言った。

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