奇店綺譚｜リアクション

奇店綺譚

真央と葵と伸幸が路地裏で合流している頃、天野はようやくシーサイドタウンへと到着していた。
「さてと、まずは情報収集か」
学校や寮で聞いた噂程度の知識しか持ち合わせていない天野は、伸幸がどのあたりにいるか見当をつけるために携帯でねこったーを閲覧し始めた。
「やはりあまり詳しい話は出てないみたいだな」
そこに流れてくる情報は、既に天野の知っているようなものばかりだった。
「しかしこの情報量だし、僕が見落としてるだけかもしれないな……七緒先輩に頼むしかないか……」
少し気が進まない風にそう言うと天野はねこったーで自分がフォローしているリストから『おりおん』というアカウントを選び、ねこったー上の『喫茶店』関連の情報を知りたい旨のダイレクトメールを送る。
『おりおん』こと七緒璃音は重度のねこったー中毒患者であり、この手の情報の扱いならばお手の物だろう。
「これでよし」
送信したのを確認して、天野は携帯をしまう。
「さて、どうしよう。やっぱりこのあたりの飲食店といったらキャットロード周辺か……？」
そう見当を付けて天野が歩き始めようとした時、前方のコンビニエンスストアから２人の男性が現れた。
「おっと」
天野は咄嗟に電柱の陰に身を隠す。
それは桐島、吉田両先生だった。
物陰に隠れた天野には気付かず、２人はそのまま立ち去った。
「あの２人、どちらも袋を持っていなかったし、服装からしてプライベートってわけでもなさそうだな」
そう言って天野は小さく舌打ちをした。
「……見回りってことか。まったく、面倒くさい事になってきたなぁ」
天野は大きなため息をひとつつくと、一度しまった携帯をもう一度取り出しねこったーを開いた。
「『桐島・吉田先生、シーサイドタウン見回り中みたいだ　駅近くのニャブン付近』っと。これで真辺が気付いてくれれば良いけど」
そう呟いた天野は、教師２人組とは別の道をキャットロードへ向かうのだった。

「お先失礼しまーす」
シーサイドタウンに建っているゲームセンターの中から、アルバイトを終えた七緒璃音が現れた。
普段ポニーテールに結っている髪はほどき、眼鏡までかけている。
眼鏡のレンズは度が入っていない、所謂伊達眼鏡だ。
「さってとー」
建物を出た璃音は早速携帯を取り出してねこったーを起動する。
「バイト中はさすがに見てたら怒られちゃうからなぁ」
普段３０分と空けずねこったーの確認を絶やさない璃音にとって、携帯を触ることが出来ないアルバイトの時間はなかなかに苦痛なのだった。
彼女の生活とねこったーとは切っても切れない関係にあり、もはや手の付けようがないほどのねこったー廃人と化していた。
「んっんー、今日も皆さん『喫茶店』の噂で持ち切りですなー。おっと、逆巻からＤＭ来てんじゃん」
右手に携帯を握り、その親指でタイムラインを遡って見ていた璃音は、ダイレクトメールの受信を示す通知に気付いた。
「なになにぃ……なんだよ、逆巻まで『喫茶店』探してんの？　暇だねー　青春かっつーの」
呟いて、璃音はにやにやしながら頭をぼりぼりと掻いた。
「まいっか。ほいほいっと」
璃音は天野からのダイレクトメールに、自分でまとめておいた『喫茶店』関連のつぶやきまとめサイトへのＵＲＬを貼り付けて返信した。
「『ま、多分もう知ってる内容が殆どだと思うけど。一応今出回ってる情報は網羅してあるよん』っと。まぁこんなとこか。……ってうわ返信はやっ！　こわい！」
璃音が返信して殆ど間を置かず天野からの返信が来た。
「えぇー、ウチにも手伝えって？　バイトあがりで疲れてる先輩に頼むなよな……」
立ち止まってしばらく考える璃音。
「しゃあない、手伝ってやるかぁ。ひとつぐらい貸しを作っておくのも悪くないし。このおりおん様の手を煩わせたこと、逆巻にたっぷり後悔させてやろう」
璃音は意地の悪い笑みを浮かべて天野に返事を返すのだった。
またも返事は早く、天野からのメッセージには合流場所が記載されていた。
「あーあ、ウチまで青春かっつーの。ウチは枯れ専なのにさー」
その場所を確かめ、璃音はぼやきながらもその場所へと向かう。