【いちもーだじん作戦！】

　樹と蟻地獄の助力もあって、包囲網を脱したKanonのキングニャーサー。
「よし、これなら……！」
　Kanonの緑の目に、はっきりと映り込みました。勝利への道筋が！
「そこだっ、ニャーサー！！」
　甲冑を身に着けた騎士王は重量級に見えて、そのスピードは敵機の追随を許しません。どぎゅんっ！　と急加速したキングニャーサーは目にも止まらぬ速さで戦場を駆け抜け、翻弄します。時には銃撃をシールドでしのぎながら突撃し、ニャクスカリバーのひと振りで一刀両断！
　ニャーサーを追いかけてあっちへこっちへ、てんてこまいの暴走ギアたちの頭上から降りそそぐのは、Diablo Azulの砲撃です。
「そこよッ、もらったわ！」
　彼らは臨機応変、状況やその場の流れによってパートナーを入れ替えながら、繰り出すコンビネーションプレーはまるで熟練の技でありました。
「ねえ、暴走ギア君たち。ナポレオンが最強と呼ばれた理由、なんだか分かる？」
　そんなことを口にしつつ、アオイが余裕の表情でスマホをタップするたび、Diablo Azulのキャノン砲が火を噴き、

「砲兵を巧みに使いこなしたから、よ！」
　砲弾は狙いバッチリ、暴走ギアの真芯を直撃！
「へぇ。イイこというね」
「あっ、MAKIYUKIくん？」
　いつの間にやら、ニャーサーと背を合わせるように立っているボナパルト２。MAKIYUKIはKanonの隣でいつもの無表情ながら、しゅぱんとスマホをなぞります。
「左右は砲撃任せ。正面カタイの、ヤルよ。同時」
「え？　あ、うん、分かった！」
　なんとも不愛想なことですけれど、Kanonはすぐにその意図をくみ取りました。
　Diablo Azulの正確かつ広範囲砲撃を背に、キングニャーサーは突撃！　砲撃を逃れてこちらへ飛びかかる暴走ギアは、ボナパルト２がビーム狙撃銃で次々に叩き落としていきます。
　正面には鎧を着込んだ悪魔のような、いかにも凶悪そうな暴走ギアが槍を構えて、ニャーサーを迎え撃ちます。

「ニャーサー、いっけぇぇぇ！！」
　攻撃の手は砲撃と狙撃が押し留め、胸もとど真ん中へと、騎士王は聖剣を突き立てました。



　ゲンジとキリコのカプセルギアは、どこか似ています。
「だからかな？　なんか……」
「合わせやすいッスね！」
　ぎゃりりとかかとのローラーがうなりを上げ、カオスダイバーとトルーパーは土に平行な線を描きながら猛ダッシュ！　ちょっぴり装甲の厚い暴走ギアを挟み撃ち、前後からチェインガンとヘヴィマシンガンの弾丸を浴びせて討ち取りました。
「クミ、右のやつお願いー」
「うわ、ゲンジが仕事ぶんなげてきた！　こーいうのなんていうんだっけ……『ダメ上司』だ！」
「へーっ、ふたりはじょーしとぶかのアイダガラなんッスね！　どうりで息ピッタリッス！」
「違うと思う」
　なんてやり取りも軽快に。散開したカオスダイバーとトルーパーの間を抜けて、ST93ことガラクタくんが踏み込みます。
　油を差していないブリキのロボットのようなぎこちない動きを隙と見たのか、暴走ギアがいっせいに武器を向けました……けれどもちろん、ぐみ。の作戦どおり！
「やっちゃえ、ガラクタくん！！」
　ギコギコ関節を鳴らしながらも動きは俊敏、敵機とすり違いながら一瞬の居合い斬り！
「うわ、なにあれ！　速い！」
　強烈な風切り音に頭上を見上げると、飛んでいるのはヘリコプターとロボットの中間のような、スピードタイプの飛行型ギアです。急降下しながら円筒形のランチャーからロケット弾を乱射し、ちゅどどどどんっ！　あたりはあっという間に、炎の海です。
　おまけにヘリ型ギアは動きが速く、こちらの銃撃がかすりもしません。
「こいつは……おし！　ウチにまかせるッス！」
　キリコはそう言うと、なにを思ったのか、取り出したのは紙パックのコーヒー牛乳です。
「いつもと違う状況って、緊張してノドが渇いちゃうッスからね～」
　ずびびーっとコーヒー牛乳を吸い上げるように飲み干すと、
「おおっ！　糖分補給したら、なんか敵がゆっくりに見えるッスよ～！　見える！　ウチにも敵が見えるぞ！　って場面ッス！」
　知ってか知らずか、発動したろっこんによって強化された動体視力で、キリコは素早い敵機をロックオン！　トルーパーのヘッドパーツが備える優秀なロック機能も手伝って、正確に敵をとらえます。
「そこ～～～ッス！！」
　軌道を読み切り、マシンガンでヘリ型ギアのテイルローターを粉砕！
　ゆらゆらと高度を下げたところで、ローラーダッシュで急接近したトルーパーは右腕を振りかぶり、必殺！　パイルバンカー！！
「こっちこっち。おーらい」
　どこかのんびりとしながらも、やることはきっちりやるのがゲンジです。

のほほん
　水平に吹っ飛んできた暴走ギアへ、こちらもまた左腕を弓引き構えて、下から撃ち込むパイルバンカー。直上へとかち上げ、ダメ押しに腰のグレネードランチャーを花火のように打ち上げます。
「トドメよろしくー」
「あーっ、また押し付けたなー！」
　もちろんぐみ。は、この状況を楽しんでいるのです。
　ガラクタくんはジャンプ一番、

「わるいこは分解だー！！」
　大上段から高周波震動刀を振りかぶり、真一文字にカラタケ割り！　ヘリ型ギアはまっぷたつとなって、空中でちゅどんっと大爆発！
　三人は連携プレーで見事、勝利をもぎとったのでした。



　のんびり屋のゲンジも、せっかちなぐみ。も、それでいて暴走ギアたちの動きをよく見ています。
「クミとかほかの誰かとバトルするのと違って、えーと……うまくいえないけど。暴走してるカプギアって、似たような動きをしてるよね？」
「ほんとだ、同じような動きだね！　へたくそな設計図みたい！」
　彼らもまた、気づいたようです。攻撃が現実になるのと同時に、暴れ回るギアたちの多くが、どこか画一的な動きを繰り返しているらしいことに。
　ゲンジはふむ、と少し考え込むと、
「もしかしたら……ねえ、みんな。ちょっと試したいんだけど、いいかなー？」
　もちろんバトルの手は止めず、ゲンジは周囲のギアマスターたちへ、声をかけました。なるべく手短に、作戦の要点を説明します。
「なるほどね、分かったわ！　私に任せなさい！」
　にやりと微笑むアオイは迷わず、Diablo Azulの残り少ない砲弾を撃ち尽くすまで、キャノン砲を連射！
　当然、着弾地点は狙いどおり。そこかしこで上がった爆炎が暴走ギアたちの退路を断つと、
「ほーら、こっちだよ！」
「ウチもやるッスー！！」
　真っ赤な炎をのなかをキングニャーサーとトルーパーが駆け抜け、敵機をまとめて誘導していきます。砲撃は正確にギアたちを追い立て、やがてわらわらと群れをなし、
「カンタンにワンパターンって見抜かれちゃうんじゃ、れーせーな私たちには通用しないよ！」
　ガラクタくんもニャーサーとトルーパーに合流すると、囮役として群れを引っ張っていきます。試してみたなら、暴走ギアたちは思った以上に簡単に釣られてくれました。
「なんだっけ……そうそう！　こんなうぞーむぞーに、私たちが負けたりしないよ！　ねっ、ゲンジ！」
「うん。一か所に集めて……ほら。いちもーだじんっていうのにできちゃうよ」
　誘い込んだ先には、銃を構えたボナパルト２にカオスダイバー。それに、
「いらっしゃ～い♪」
　樹の蟻地獄が待ち構えていました。
「根こそぎ焼き払うよ！！」
　蟻地獄は右腕の必殺兵器、超高熱のレーザーを全開で照射！
　仲間たちも銃弾に砲弾を残らず叩き込み、運良く残った一体も、ガラクタくんが一刀両断。まさしく一網打尽でありました！
「……イイね。やるじゃん」
　ぴゅう、と口笛を鳴らしてぽつりと漏らしたMAKIYUKIに、彼らは満面の笑みを浮かべて見せました。