【カプギア解放戦線】

「フハーッハハハハハ！　案ずるな子どもたち、私が来たからにはもう心配ナッスィング！」
　なんだかんだで、さすがプロ。MEIJINの操るメイジンダーＸは、にげまどう子どもたちと暴走ギアの間へさっそうと躍り出ると、メイジンダービーム！！　ぐるりと頭を回して、何体ものギアをまとめて薙ぎ払ってしまいました。
　そんなMEIJINのプロ級な活躍を目の当たりにして、鈴島 クミは仏頂面で言ったものです。
「カプギアのプロってなに？　オトナがカプギアやると、お金がもらえるの？　子どもたちからお金をふんだくりながら遊べるなんて、オトナはズルイね！」
「オトナもいろいろあるんじゃないかな、きっと。あっ、ねえクミ、あれ見てよ」
　のっぴきならない社会の仕組みといったものをなんとはなしに悟りつつ、陸堂 源次は公園の一角を指差しました。
　そこではふたりの見覚えある少年が、なにやらむすっとした顔を浮かべています。
「どうしてワカラナイのかな。だから、陣を作るんだよ。円陣」
「エンジンがなによ？　あたしのエンジンはいつだって全開バリバリよっ！」
　はすっぱそうな女の子は、叩きつけるようにスマホをタップして、愛機とともにうおりゃーっと突撃していきました。
　少年は肩をすくめて、ため息をひとつ。
「あれって、隣のクラスの……牧？　だっけ。カプギア上手いって噂の」
「おーほんとだー、牧くんだ牧くん」
　MAKIYUKIはスマホの液晶画面をなぞり、ボナパルト２の狙撃で暴走ギアを叩き落としつつ、クミと源次の視線に気づいたようです。クラスが隣同士ということもあり、あちらもふたりの顔は知っていたのかもしれません。
　カプセルギア暴走事件の真っただ中にあって、彼は冷静に愛機を操り敵機を撃ち抜いています。真正面からギアバトルで勝利することができたなら、暴走は収まりカプセルギアは自由を取り戻す……というのはどうやら、見ていた源次とクミにも分かりました。
「カプギアを使えば止められる、みたいだね。このままじゃ、イベントもだいなしになっちゃうし……いこうよ、クミ」
「うんうん、そうだね！　なにごもとけーけんだよね、こんなのを放っておくのはもったいないよね！　いこーいこー！　ほらはやく！」
　瞬間、クミはギアマスター・ぐみ。に、源次はゲンジとなり、カプセルギア起動！
　アプリケーションとしてのA.I.C.O.は起動しましたけれど、暴走の影響なのか、あのちょっとお茶目なお姉さんボイスによるナビゲート機能は、どうやら停止したままのようです。
「ま、なんとかなるよ」
　ゲンジは『カオスダイバー』をローラーダッシュで突撃させ、牽制のチェインガンを連射。
　ぐみ。の『ST93』、通称ガラクタくんは遅れてなるものかと軽快に駆け出し、高周波振動式無銘刀を振るってさっそく暴走ギアを斬って捨てました。
「おれもやるよ！」
　そんなふたりに続くのはKanonこと、滝原 カノン。小学生らしからぬ長身に、あどけない顔をにわかにきりっと引き締めて、カプセルギアを取り出します。
「どうしてこんなことに……なんて、かんがえるのはあと！　いくよ、『キングニャーサー』！　みんなのギアを止めよう！」
　持ち前のスピードをすぐさま発揮して、一気にカオスダイバーとガラクタくんの前へ出ると、聖剣ニャクスカリバーを一閃！
　ふとKanonは視線を感じて、振り返ります。
「うん……おれも手伝うよ。MAKIYUKIくん」
　彼とは以前、ギアバトルで良い勝負を繰り広げたことがありました。
　距離を隔てながら、おたがいに小さくこくりとうなずくだけで、どうやら意図は伝わったようです。
「よおし。駆け抜けろ、ニャーサー！」



　と、気合を入れたKanonですけれど。
　いかんせん敵は無数です。ぎゅんぎゅんスピードを上げて翻弄するものの、
「わわっ、ちょっとまずいかも……！？」
　キングニャーサーほどではないにしろスピード重視の機体がいくつか、挟みこむような軌道でニャーサーを追い詰めます。
　正面から飛んできたロケット弾を、ニャーサーは十字模様の描かれたシールドでがっちりブロック。けれどその隙を突いて、重騎士型のごっついギアが大きなハンマーを振り上げ、ニャーサーの背中へ一撃……！
　と、いうところで。

「はーいそこまで！」
　がきーん！　飛び込んできた一体のカプセルギアが、バリアを展開してニャーサーを守ります。
　ありがたい乱入者は新田 樹と、これまたごっつい重カプセルギア、『蟻地獄』！
「あ、ありがとう！」
「オーケーオーケー。おおっ、しかしこれは大乱戦ですな～！　私の大好物だね♪」
　こんな状況にあっても樹は樹のまま、なんとも楽しそう。
　蟻地獄はほとんど足を動かすことなく、その場にでんと鎮座したまま、重装甲と大火力を活かして戦う超カプセルギアです。ニャーサーの周りを飛ぶ飛行タイプの機体を、レッグパーツに搭載された引き寄せ機能で射程内に無理やり引っ張り込むと、分解可能な左腕を展開。複数のブロックに分かれた左腕が自在に飛び回り、暴走ギアをめった打ち！
「一度はまったら抜けられない。それが私の蟻地獄！　なーんってね」
　緊張感といった言葉とは無縁の樹は、あくまでマイペースでありました。
　イベントに集まったギアマスターたちに比例して、暴走ギアは数え切れないほどひしめいておりますけれど、動ける味方もまた少なくありません。
「カプギアの攻撃が現実になるなんて……生身で当たったら怪我するわよね」
　なんて言いつつも、仙藤 蒼……アオイは身体のなかに、煮えたぎるような血の熱さを感じ取ります。
　すなわちこれ、ゲーマーの血です。
「ヤバそうなのに、なんだか燃えてきちゃった。『Diablo Azul』、介入するわよ！」
　砲撃型カプセルギア、Diablo Azulは両肩の240mm中距離用無反動キャノン砲をつるべ撃ち。またたく間に周囲を制圧していきます。
　キャノンは絶大な威力を誇るものの、曲射砲であるがゆえに遠距離での命中率は望めません。その穴を埋めることになったのは、
「すごいことになってるッスねー！　こりゃもーウチも乗っかるしかねぇッス！　このビッグウェーブにッ！」
　パラシュート降下しながら、ビームマシンガンを撃ちまくり。Diablo Azulの砲撃で散った暴走ギアを各個撃破していく、強襲型カプセルギア『トルーパー』。
「それに、これ以上公園を壊されると、遊ぶ場所が減って困るッスからねー」
　操るのはギアマスターネーム・キリコこと、古尾 桐子！

「キリコ・トルーパー、参戦するッスよ！」
　砲撃の雨あられを背に、トルーパーはローラーダッシュで突撃！　着弾した砲弾がどかどか爆発を巻き起こすなか、トルーパーは一瞬で敵機へ近づくと虎の子の左腕、パイルバンカーを一撃！　炸薬の衝撃で飛び出す杭が、敵を前後に貫きました。
　排出された薬莢が地に落ちる間もなく距離を取り、ビームマシンガンで牽制。動きを止めた暴走ギアを逃さず、Diablo Azulの240mmキャノンが直撃！
「おねーさん、ガンガン撃ちまくってくださいッス！　ウチが前に出るッスから！」
「ＯＫ、砲撃支援は任せて！」
　ギアマスターたちは初顔合わせの面々も多いながら、こうしてバトルのなかへ放り込まれて見たならこれが案外、即興の連携も噛み合っています。
　余計なことを考えず目の前のことに邁進できるのは、子どもたちならではの純粋さのたまものであったことでしょう。