寝子島の風にのって、ぱたぱたぱた｜リアクション

寝子島の風にのって、ぱたぱたぱた

谺するのは狼の遠吠え。
リンゴン、リンゴン――鐘が不吉に鳴り響く。
赤みを帯びた満月が昇れば、今宵はハロウィン。
蝙蝠たちの羽音に合わせて踊ろうパーティ！　輪になれモンスターども！

「トリック・オア・トリート♪　お菓子くれないと悪戯しちゃうデス！」
　カボチャ魔女に扮したキュルビス・ラムズイヤーの声に合わせ、モンスターたちは歌い出す。
　もっともキュルビスはいつだってハロウィン。カボチャ頭の下の素顔を知る者はいないのだけれど。
「今宵は一年で一等クレイジーな夜デス！　陽気にしやがれデスヨ、皆の衆！」

「ええ勿論」
　ゾンビ婦警なアリス・ミーティアは、つぎはぎの腕で手錠をカチャカチャ振り回す。
　破けたタイトスカートからのぞく白い太腿にも大きな傷あと。
　はち切れそうな胸に挟まれ、黒のネクタイが窮屈そうだ。
「５００年生きた私でも、こんな夜は楽しいもの。ええそう、右手は１００年前に死んだあの人の。左手は２００年前に死んだ彼女のよ」
　背中の羽根をぱたぱた動かし、嘘か真かそんなことを宣うアリス。

「生者も死者も、悪い子ちゃんは逮捕しちゃうぞ？」

「悪い子なんかじゃありません。血を吸わなければ生きていけない憐れな生き物なのです、レディ」
　赤いリボンのついた漆黒のマントを蝙蝠の羽のように広げたレント・イナホは、猫耳紳士なヴァンパイア。
　右の瞳は蒲公英のように黄色く、左の瞳は勿忘草のように青い。

「レント」と名乗る時は男装で、明るく社交的な性格。

「イナホ」と名乗るときは女装で、落ち着いて内向的な性格。

　そんな二面性のある彼だが、今宵はどうやらレントであるよう。
　悪戯っぽい笑みを浮かべ、夜空にマントを翻す。
「楽しんでいますか、魔女さん？」

　ぬいぐるみを抱えた魔女・遠野まほろは、問われてこくんと頷いた。

「楽しんでるよ……魔法のかかった夜だから。ぬいぐるみたちも生き返るの……」
　誰かに捨てられちゃった子も。
　誰かに忘れられちゃった子も。
　ハロウィンの魔法で蘇って、まほろの周りに集っている。
　抱えているのは灰色の、まほろの手から生まれたネコのぬいぐるみ。
　まほろはその耳にそっとキスする。
「いっしょに楽しもうね……」

　ボーンフリークな稲井いおねは、ぺろぺろキャンディをぺろっと舐めてウィンク。
　赤いセルフレーム眼鏡ごしにぬいぐるみを見て喚く。
「おや大変！　その子には骨がありません！」
　胸元の髑髏付きリボンが揺れる。よくよく見れば、ランタンのように膨らんだ袖や、ストライプ柄のフレアスカートの裾、髪に結ばれたリボンにも、骨好きないおねらしく骨のモチーフがあしらわれていた。
　いおねは眼鏡の蝶番を片手の親指と一指し指で抓んで、隣にいる青年を見た。

「おおー、陰陽師さん。貴方の頭蓋骨はなかなかに美しいですっ！」

「そのようにお褒めいただけるとは恐悦至極。尤も、今宵の僕は陰陽師ではなく狐だよ？」
　月を背に、薄羽白露は嫣然と笑む。
　見ればまさに、彼の頭には月光に銀と輝く狐耳が、つんと気取って生えていた。
「狐は人を騙すという。異国の異形の夜祭りをいっしょに楽しませてくれないかい？」
「勿論ですとも、狐さん。骨のかたちがキレイな人を拒むはずがありませんとも！」
「それはよかった。こーん、こん」
　両手で人差し指と小指を耳に見立てたキツネを作り、白露は可愛く狐啼き。

　八神修と鴻上彰尋と七夜あおいはアリスのティーパーティコスプレで参戦。
　あおいは、アリスといえばお馴染みの空色エプロンドレス。リボンやウエストの黒を差し色にして、ハロウィンらしさを演出する。シルクハットに白手袋の修は三月ウサギ。

「三月ウサギのように気が狂っている (Mad as a March hare)？　――そうとも」
　修は『マッド』や『クレイジー』とは対極にあるような紳士的な笑みを浮かべる。
「今宵はマッドティパーティ。さ、アリス、お茶を一杯いかがかな？」

　彰尋は帽子屋。彼のティーカップの中では、灰色のちいさな眠りネズミがすやすや眠りこけている。

「帽子屋のように気が狂っている（as mad as a hatter）？　――そうかも」
　彰尋は頬を染め、アリスから視線を逸らす。
　それはきっと、月明かりに照らされたアリスが可愛らしすぎたから。

「どうしたの、ふたりとも？」
「どうもしない。さ、アリス、お茶はどう？」
「そう。どうもしない。ただ今宵の月が、美しすぎるだけ」
　――三月うさぎと帽子屋が狂っているとするならば、それはきっとアリスのせい。

「レディースエンドジェントルメン！」
　錬金術師の赤いマントを羽織ったクラオコア・マハナが腕を広げる。

「おにいさんもおねえさんも！」
　甲冑の上に青のローブを纏ったカラオコア・マハナも腕を広げる。

　
　クラオコアとカラオコアは双子の兄弟。どちらが兄で、どちらが弟なのかは本人たちも忘れてしまった。
　でもそんなことはどうでもいい。
「ゾンビも魔女もジャックオーランタンも、日常なんて忘れてしまえばいいのじゃ！」
　お日様みたいな金色の髪のクラオコアが言う。
「キャンディ、クッキー、コーラにジェリービンズ。パーティはまだこれからじゃ！」
　お月様みたいな銀色の髪のカラオコアが言う。

「今宵はパーティ」
「愉快なパーティ」
「トリックオアトリート！」
「お菓子くれても悪戯しちゃうぞ？」

　カボチャなキュルビスの笑い声が響く。
「ケケケー！　今夜はハロウィンなのデスヨ！　毎日毎日ハロウィンになればいいのデスヨ！」
　オレンジのカボチャの目が光る。帽子の飾りのゴーストが哂う。

Trick-or-treat!
Trick-or-treat!
Trick-or-treat!
Trick-or-treat!

谺するのは異形たちの笑い声。
リンゴン、リンゴン――鐘が不吉に鳴り響く。
赤みを帯びた満月は巨大。今宵はハロウィン。
蝙蝠たちの羽音に合わせて謳おうパーティ！　行進しろモンスターども！

このページにイラストを設定する

寝子島の風にのって、ぱたぱたぱた

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧