- 0
- 0
- 種族
-
- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
今日も今日で仕事です
耳を澄ませば初夏にも近い春の海のさざめきも聞こえる寝子ヶ浜交番の向かいに、『299 COFFEE』はある。299とも通称される『ニクキューコーヒー』は、焙煎工場と喫茶スペースを備えたコーヒー屋。
小さくとも綺麗な前庭を過ぎて出入り口の扉をくぐれば、木の温かさが印象的な内装とコーヒーの甘い香りと、それから三十代の眼鏡をかけた森崎 荘二店長が人好きのする笑顔で出迎えてくれる。
店の外にも溢れるコーヒーの香を嗅ぎながら、御剣 刀は花の咲く前庭の脇を過ぎ、焙煎工場側の出入り口から店に入る。299の開店ほどない一年ほど前にウェイターのバイトとして雇われ、季節が一巡りしようとしている。
「こんにちはー」
裏口をくぐって店内に入ることにも慣れた。ウェイターの衣装に身を包むことも、カフェエプロンを掛ける動作も、大分堂に入ってきたように思う。珈琲だって豆を挽くところから淹れられる。
(マスター程じゃないけど)
それに、マスターが得意とするラテアートもまだまだ上手く出来ない。閉店時に練習させてもらったりもしているものの、客に出せる域には至れていないのが悔しいところ。
店内奥のキッチンで調理にかかり切りになっている森崎店長に声を掛け、ホールに立つ。 一年近く続けていることもあり、299での仕事はほとんど日常の、刀にとっての『フツウ』の一部に近い。
(改めて気合を入れるような事はないけど)
それでも、訪れてくれる客にいつもと変わらず満足してもらえるよう、
(頑張ろう)
店内の客は今のところ数人。お冷は足りているか、注文をしたそうなお客は居ないか、食器の片付いていないテーブルはないか、素早く見回す。
キッチンから漂い始める軽食の匂いに思わず鼻をひくつかせる。平日バイトの始まるこの時間は、お腹を空かせた寝子高生の入店が多くなる時間帯でもある。 配膳のタイミングを推し量りつつ、キッチン近くでメニューを確かめる。
(今日のお勧めは何だっけ？)
学校帰りでお腹が空いているのは刀も同じ。うっかり自分が食べる気分でメニューに視線を走らせる。自家焙煎のコーヒーや常時おすすめなベイクドチーズケーキはもちろん、喫茶店ならではのサンドイッチやオムライスにパスタも美味しい。冬の間はじっくり煮込んだビーフシチュー、春先には菜の花としらすのパスタ、
(今日は春野菜のミネストローネか)
焼き立てあつあつのパンが添えられた野菜たっぷりのミネストローネを想像し、刀は思わずよだれの垂れそうな口元を抑えた。
(押し付けがましくならないよう、さりげなく、)
これが美味しいんですよ、と伝えるにはどう言葉を尽くせばいいだろう。
自炊程度ならば問題なくできるものの、店で出す料理ともなると調理も説明もどうにも難しい。
そんなことを考えている間に、キッチンカウンターに熱々の鉄板に乗せられたナポリタンが置かれた。配膳するテーブルを確認し、銀盆に乗せて運ぶ。
「お待たせいたしました、鉄板ナポリタンです。鉄板が熱くなっておりますのでお気を付けください」
ナフキンに包まれたフォークとスプーンとともに提供し一礼したところで、店のドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ！」
明るい声をかけ、顔見知りの寝子高生カップルを空いた席に案内する。お冷とおしぼりを出し、
「お決まりになりましたらお呼びください」
営業スマイルを一ミリも崩さず接客する。寝子高生の客も多い299では、顔見知りと鉢合うことも日常茶飯事。バイトを始めた当初は動揺することもなくはなかったものの、最近は随分と慣れてきた。
ホールを巡回し、空いた皿を下げる。お冷のお代わりを注ぎ、別の客の会計を済ませる。森崎店長と同じに落ち着いた店の雰囲気を壊さないよう、丁寧に親切に、ひとつひとつの仕事を片付けていく。
寝子高生カップルから珈琲とホットカフェオレの注文を受け、店長に届ける。
(……あの雰囲気)
気まずいような照れくさいような表情でお互いに目を合わさそうともしない、見ているこっちが気恥ずかしくなってくるふたりの雰囲気は、299に勤めるうちに何度か見ている。
(そうかー、そういうことかー)
内心のちょっとの羨ましさも妬ましさも微塵も顔に出さず、注文の品をそっと供する。色んな客の色んなドラマが垣間見られるのも、ここが魅力的な場所であるからこそなのだろう。
(ここの店、いいよな)
299を告白だか初めてのデートだかに選んだふたりの選択に、刀は心の中で拍手を送る。そう思えるほどに、この店が好きだった。
ふたりにこの店でのひと時を楽しんでもらえるようなるべく気配を消して頑張りながら、頑張るあまりますます減って来た空きっ腹を必死に堪える。
今日のご飯はバイト終わってからここで食べよう。そうしよう。
小さくとも綺麗な前庭を過ぎて出入り口の扉をくぐれば、木の温かさが印象的な内装とコーヒーの甘い香りと、それから三十代の眼鏡をかけた森崎 荘二店長が人好きのする笑顔で出迎えてくれる。
店の外にも溢れるコーヒーの香を嗅ぎながら、御剣 刀は花の咲く前庭の脇を過ぎ、焙煎工場側の出入り口から店に入る。299の開店ほどない一年ほど前にウェイターのバイトとして雇われ、季節が一巡りしようとしている。
「こんにちはー」
裏口をくぐって店内に入ることにも慣れた。ウェイターの衣装に身を包むことも、カフェエプロンを掛ける動作も、大分堂に入ってきたように思う。珈琲だって豆を挽くところから淹れられる。
(マスター程じゃないけど)
それに、マスターが得意とするラテアートもまだまだ上手く出来ない。閉店時に練習させてもらったりもしているものの、客に出せる域には至れていないのが悔しいところ。
店内奥のキッチンで調理にかかり切りになっている森崎店長に声を掛け、ホールに立つ。 一年近く続けていることもあり、299での仕事はほとんど日常の、刀にとっての『フツウ』の一部に近い。
(改めて気合を入れるような事はないけど)
それでも、訪れてくれる客にいつもと変わらず満足してもらえるよう、
(頑張ろう)
店内の客は今のところ数人。お冷は足りているか、注文をしたそうなお客は居ないか、食器の片付いていないテーブルはないか、素早く見回す。
キッチンから漂い始める軽食の匂いに思わず鼻をひくつかせる。平日バイトの始まるこの時間は、お腹を空かせた寝子高生の入店が多くなる時間帯でもある。 配膳のタイミングを推し量りつつ、キッチン近くでメニューを確かめる。
(今日のお勧めは何だっけ？)
学校帰りでお腹が空いているのは刀も同じ。うっかり自分が食べる気分でメニューに視線を走らせる。自家焙煎のコーヒーや常時おすすめなベイクドチーズケーキはもちろん、喫茶店ならではのサンドイッチやオムライスにパスタも美味しい。冬の間はじっくり煮込んだビーフシチュー、春先には菜の花としらすのパスタ、
(今日は春野菜のミネストローネか)
焼き立てあつあつのパンが添えられた野菜たっぷりのミネストローネを想像し、刀は思わずよだれの垂れそうな口元を抑えた。
(押し付けがましくならないよう、さりげなく、)
これが美味しいんですよ、と伝えるにはどう言葉を尽くせばいいだろう。
自炊程度ならば問題なくできるものの、店で出す料理ともなると調理も説明もどうにも難しい。
そんなことを考えている間に、キッチンカウンターに熱々の鉄板に乗せられたナポリタンが置かれた。配膳するテーブルを確認し、銀盆に乗せて運ぶ。
「お待たせいたしました、鉄板ナポリタンです。鉄板が熱くなっておりますのでお気を付けください」
ナフキンに包まれたフォークとスプーンとともに提供し一礼したところで、店のドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ！」
明るい声をかけ、顔見知りの寝子高生カップルを空いた席に案内する。お冷とおしぼりを出し、
「お決まりになりましたらお呼びください」
営業スマイルを一ミリも崩さず接客する。寝子高生の客も多い299では、顔見知りと鉢合うことも日常茶飯事。バイトを始めた当初は動揺することもなくはなかったものの、最近は随分と慣れてきた。
ホールを巡回し、空いた皿を下げる。お冷のお代わりを注ぎ、別の客の会計を済ませる。森崎店長と同じに落ち着いた店の雰囲気を壊さないよう、丁寧に親切に、ひとつひとつの仕事を片付けていく。
寝子高生カップルから珈琲とホットカフェオレの注文を受け、店長に届ける。
(……あの雰囲気)
気まずいような照れくさいような表情でお互いに目を合わさそうともしない、見ているこっちが気恥ずかしくなってくるふたりの雰囲気は、299に勤めるうちに何度か見ている。
(そうかー、そういうことかー)
内心のちょっとの羨ましさも妬ましさも微塵も顔に出さず、注文の品をそっと供する。色んな客の色んなドラマが垣間見られるのも、ここが魅力的な場所であるからこそなのだろう。
(ここの店、いいよな)
299を告白だか初めてのデートだかに選んだふたりの選択に、刀は心の中で拍手を送る。そう思えるほどに、この店が好きだった。
ふたりにこの店でのひと時を楽しんでもらえるようなるべく気配を消して頑張りながら、頑張るあまりますます減って来た空きっ腹を必死に堪える。
今日のご飯はバイト終わってからここで食べよう。そうしよう。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2017年10月31日
- 参加申し込みの期限
-
- 2017年11月07日 11時00分
- アクション投稿の期限
-
- 2017年11月07日 11時00分
