螺旋階段の家｜リアクション

螺旋階段の家

「ごめんくださーい！」
　集まった四人が屋敷に侵入してすぐ、志波武道は悪寒にも近い強い違和感を肌に覚えた。
「……。さぁっ、張り切っていこーう☆」
　しかし、それを言ってしまっては、今回集まったメンバーの不安を無駄に煽ってしまう気がして。武道は内心の警戒を高めつつも、声音を明るく振る舞いながら足並みを揃え進むことにした。

　しかし、その気遣い以上に、屋敷を覆う空気は生ぬるく、そして重たい。
　一緒に歩く上下左右、如月庚、屋敷野梢も、内心それが尋常ではないことを察している。
　それでも、軽く言葉などを交わしながら屋敷内を歩くうちに、元は鮮やかな赤であったのであろう絨毯の廊下が、垂直に曲がっているのが目に入った。

「ま、まあこの手の噂は、結局噂は噂で──ひっ……！
　今、そこの先の陰で何か動きましたよ……き、如月くん、ちょっと見てきて下さい、男子でしょー！」
　半分、相手の身体に隠れるように梢が庚の肩越しに先の見えない廊下を見つめる。
「……しゃーねーな」
　恐らく、要請がなくともこの状況下ならば先頭に立つであろう庚が、同じくさり気なく前に出た武道と共に、女性陣の前に歩いて廊下を曲がる。

　そして、廊下を曲がった瞬間。
　目に入ったのは、廊下に飾られていたのであろう巨大な花瓶や時計などが、こちらを待ち構えるように、中空に不安定な様子で浮かんでいるところだった。

「チ……ッ！！
　志波先輩！」
　とっさに掛けた声の意味を把握するように、前線を庚に任せ、武道は女性陣を守るように後ろに下がる。
　前に出た庚は、普段は前髪で隠れている深い額の傷痕を指でなぞった。

　ろっこん“青にして蒼穹”──薄暗い屋敷内に、右腕へと蒼い炎にも似た光を纏わせて得た爆発的な破壊力をもってして。
　投げ放たれるように集中してきた飛来物を、庚は己の左足を一歩前に大きく踏み込み、それら全てを右腕だけで一気に巻き込んで床へと一斉に叩き伏せた。
　床に打ち据えられた物が、立て続けに破壊されていく音が響く。

「一直線に飛んでくるモンがデケェってのは、ある意味、的がデカくて楽だな……」
「──庚くん、第二波が来るぞ！」
「チッ！！」
　庚の呟きに、武道が警鐘を鳴らす。
　庚が腹を決めて再び正面に意識を向けたとき、不意に隣に梢の姿を見た。
「危ねぇだろ！　下がれ！」
「怖いですけど、また次が来たらキリがないですよ！　──駆け抜けてください！」
　そう叫ぶと、梢はポルターガイスト現象によって襲いかかってくる物に集中して、蝶の姿への変化を想像し、ろっこん“胡蝶の詩”を発動させた。

　──目に入る飛来物が全て虹色の蝶へと変化する──その合間、色が美しい蝶が舞い踊る幻想的な光景の中を、四人は命懸けで走り抜けた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　◆　　　　　　◆　　　　　　◆

　その建物の反対側では、桜庭円と紗雪幽、新田樹が同じ現象に遭遇していたのだが、情景はまるで違っていた。
　空気が爆ぜ抜ける音と共に、飛来物は、樹の的確かつ迅速な射撃に狙われ、ガスガンの標的となった順に次々と床へと落ちていく。
　幾つか、飛んでくる物を、円と幽で回避したり捕まえたりする必要はあったが、大した被害にはなっていない。
「うわ、これ逃げた方が良くないっすか！？」
「これで、ラストです！」
　幽が思わず悲鳴を上げる中、樹が最後となった巨大な皿を撃ち割った。

　ようやく一息……その威力に、思わず幽が樹に尋ねる。
「ねぇ、そのガスガン改造……」
「違います。合法……です」
「その間は何！？」
「大丈夫です、冗談ですよ♪」
「どっちが！？」

　幽が、ガスガンと真相不明の樹の顔を見比べる中、円は床に落ちてもう動かない、割れた皿や一輪挿しの花瓶などの品々を眺めて呟いた。
「……確かに壮絶だよね。これ器物破損になったりしないのかな……？」
「自分の身を守る為の正当防衛です」
　樹が真顔でさらりと答える。
　確かに、もしそうなっては、まず不法侵入から思案しなくてはならないので、深くは触れてはならないところのような気もしないではない。

　そうして、ひとしきり浮かんで来た物が全て地に落ちると、幽は改めて感銘深そうに呟いた。
「……うわぁ……
　ははっ……ここの噂は本当だったっぽいなー。
　……よし。怖い話ストックが増えた」
　きちんと状況をメモして、幽は手にしていたメモ帳をポケットにしまう。

　そして、不意に。

「あ、あれは！　少し行ってきます！」
「「え？」」

　幽と円は同時に視界の外にいた、樹の方を振り返る。
　しかし、樹は──忽然と、二人の視界から姿を消していた……

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螺旋階段の家

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