螺旋階段の家｜リアクション

螺旋階段の家

「～と言うわけでね！」
「んー……」

　学校帰りの準備中。桜庭円は友人から、話題に上がった心霊スポット『螺旋階段の家』に立ちこめる、噂の数々を耳にして不思議そうに首をひねっていた。

　その話題から、今回数々の噂を耳にしたが、そのどれもが通常の心霊スポットにしてはごった煮で、法則性の無さが際立った。
　しかも、噂は増え続けているのだという。

「……。
　あ、ボクも聞いたことある。
『２階の作業場に入ったら、勝手に筆が動いて、入った人の死に間際の自画像が描かれる』って」
「あ、初めて聞いた！　今度肝試しに行く人に聞いてみよっと」

　思うところがあり、一つ、聞いた事もない嘘の噂を置いて。円は学校を出て歩きながら更に考えていた。

「命と記憶……
　追っかけられる奴の命が欲しいのは解る。
　でも、記憶、記憶ねぇ──やっぱり気になるし一度行ってみようっと。
　よしっ、そうと決まれば準備だ！」

　そうして、円は考えもそこそこに、歩みを急いで自宅へと帰っていった。

　空の雲行きが、見る間に怪しくなっていく。

　　　　　　　　　　　　　　　　　◆　　　　　　◆　　　　　　◆

「う～ら～め～し～や～」

「──というわけで、メンバーを呼んでみました！」

「呼ばれましたわーっ！」
　屋敷野梢の声に合わせるように、上下左右が好奇心を隠さない勢いで、杖とは反対の手を大きく上に掲げて見せる。

「心霊スポットっつーのは、どうにもまたキナくせぇ話だが……」
「噂は色々聞いたけど、実際にあったんだなこの家……」
　そして同じく、梢の呼び掛けに応じて、お互いに少し離れた所に見えるほぼ廃屋と化した洋館を見つめ合う、如月庚と志波武道の姿。

「……実害があるかどうか、調べなくちゃな」
　独りごちた武道の瞳が、心を決めるように、力強さを添えて僅かに細くなる。
「そうすね。
　被害出てからじゃ遅ぇ」
「ん……？　如月君、それは何ですか？」
　梢が、庚の取り出したペットボトルを不思議そうに目に留める。

「ああ、前の……幽霊話のいざこざの時に、寝子島神社の『手水』が効いた時があった。浄化ってヤツだな。
　使えりゃ、対処の仕方も変わるかもしれねぇ」
「本格的ですわね！
　建物も近くで見ると不気味ですが……
　なんだかワクワクしちゃいますね！」
　外観の不気味さ以上に、これから乗り込む雰囲気が楽しくて仕方がない様子で左右が頷く。

「本当に幽霊さんが出てきたら冷蔵庫にでも入れてカチコチにしてみたいところですが……」

「除霊と言えば塩ですわ！　美味しくなりそうですわね」

　左右の表情が、その考えに相応しい『わるい顔』になる──確かにスイカに振れば美味となり、氷に振れば糸で釣れる。実践すれば『かじって美味しく、糸でも釣れる』と、一芸どころか二芸に秀でたハイブリッド幽霊になるかも知れない。
　左右は中身がしっかり振れる大きめの瓶に入った食卓塩を片手に、改めて屋敷を見上げた。

　同じように梢も屋敷を目にする。しかし、梢に浮かび上がってきたものは、左右とはまた大きく異なる感情だった。

「(色んな噂を律儀に叶える心霊スポット……
真実は分かりませんが……放っておいたら、ダメな気がするんです)」
　梢は、胸元で片手を固く結びながら、静かに屋敷を仰ぎ見た。

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