「ないわー、それないわー」
「いやいや! 本当だって! 本当なんだってば!!」
「ん?」
学校帰り。
屋敷野 梢はとある噂を聞いて、九夜山に足を向けていた。
校内の休み時間、クラスメートの女子から九夜山にある、とある『肝試しに最適! 知る人ぞ知る心霊スポット!』と人気を博しているとある廃屋に着いての話を聞いた。
昔からの良くある話だが、今は、ほんの些細な好奇心からそちらへと向かう最中だ。
自分で足を踏み入れるには少し躊躇われる為、本心としては生放送として動画配信などをしてもらいたいところだが、入り口までなら害もないだろう……そう思いながら歩く。
そうして、梢が鬱蒼と生い茂る木々の間から大きく見えた、汚れきって灰色ともクリーム色ともとれる壁の建物を、玄関の金属柵越しに視界に入れた瞬間。
ふと先ほどから聞こえていた、大声でやりとりされている言葉が聞こえてきた。
「ないわー、それないわー」
「いやいや! 本当だって! 本当なんだってば!!」
こちらから少し離れた場所、丁度廃屋手前の鉄柵越しに、屋敷を見ている同じ年頃の男子が二人。向こうは、梢には気付いていないようだ。
「だからこの! 螺旋階段の家! 本当に出るんだって!!
入ったら、噂通りの心霊現象起こってさ!
よく分からないものに追いかけ回されてさ! 最後には『記憶をよこせ』『生命をよこせ』って声が!!」
「ないわー。
心霊現象って言ったらアレだろ? 『飾ってある人の絵の目が動いてニタリと笑った』とか『鏡の中の自分が出てきて、追いかけ回された』とか。螺旋階段の踊り場で、3回まわってワンとか言ったら『段差が全部消えて滑り落ちた』とか……。
まず普通に考えても、階段途中でグルグル回ればめまい起こして階段落ちするわ」
必死に訴え掛ける片方の男子と比較し、もう一人の男子は馬鹿馬鹿しいとそれを一蹴する。
「ハイハイ。どうせ写真も撮ってないんだろ」
「撮ったさ! でも、フラッシュ付けて撮ったのに、全部真っ黒に塗りつぶされたようになってて……!」
「飽きた。帰るか」
「最後まで話聞けってば!!」
そうして、男子二人組は、こっそり様子を窺っていた梢に気付かない様子で、目の前を通ってその場を立ち去っていった。
梢は、男子達の立っていた場所に移動して、建物を仰ぐように見つめる。
ここは、壊れずに建物として成立していることが不思議なくらいの、極めて不気味な九夜山の洋館であり、二階建ての吹き抜け構造で、二階に上がるのに大きな螺旋階段があって……
「……あれ?
もっと色々知っているつもりでしたが……驚きました。予想以上にあの建物のことを知りませんねー」
梢はしばらく考え込んでから、大きく一回首を振って。改めて『螺旋階段の家』を見上げ直した。
「自分で行くには勇気が要りますし、やはり誰か行って録画してくれる人はいないでしょうかー……」
口に出してはみたものの、聞いた話を思い返せば撮影の類いは失敗しているようだ。
そんな梢に──不意に、館の方から強く、止むことのない生暖かい風が吹きつけた。
「──!?」
梢は、驚きと同時に急いでその場を離れて山を下りる。
しばらく駆けて距離を取り、内心、少し不安に煽られつつ振り返る。
先ほどのは、錯覚だろうか。それとも。
「……嫌な予感がしますね……」
梢はその身に受けた感情を、そのまま言葉にして息をつく。
これは、一人で行くには本当に躊躇われる。しかし、もし噂を体感しその真相を確かめる必要があるならば、これはもう直接赴くしかないのかも知れない──
こんにちは、冬眠と申します。
この度は、シナリオガイドに屋敷野 梢様にご登場いただきました。誠に有難うございます。
また、今回のシナリオは寝子島セカンドマップ提案所でご投稿いただいた内容を元に作られております。
ご縁をいただけました際には、是非ご自由にアクションを掛けていただければ幸いでございます。
それでは、以下より状況の説明を行わせていただきます。
状況
以前から、九夜山にあるという不気味な洋館にて『幽霊を見た』『心霊現象に遭遇した』などの噂に絶えない建物がありました。
昔からある有名な心霊スポットですが、最近また色々と噂が流れ出してきたようです。
・家の主人が使用人も含めて皆殺しにして、自殺した。
・強盗に入られ、住人全員が殺された。
・二階に上がったら、とりあえず死ぬ。
などの、廃屋になった憶測話から、
・螺旋階段を登る途中で『3回まわってワン』とか言ったら、段差が全部消え一気に下まで滑り落ちる。
・人物像の絵画が動き、手が伸びて相手を掴み、絵の中へと引きずり込もうとする。
・二階の廊下に置かれている、全身鏡に姿を映すと、鏡に映ったもう一人の自分が飛び出し、追い掛けてくる。
・肝試しから戻ってきた人の中に、心身共に弱り切った上、建物の中での記憶が無い者がいる。
このような、集団催眠でなければ、明らかに人外の仕業を疑わざるを得ない噂が含まれています。
何ができるのか?
今回の舞台である「螺旋階段の家」の噂の原因追及と、建物の内部探索が出来ます。
肝試しに来た、取材に来た、迷い込んだ、雨宿り、などご自由な形で探索する事が可能です。
今、螺旋階段の家は『寝子島で囁かれた噂の集まり』となっており、起こりうる心霊現象は上記のものだけではありません。
・肝試しで、このような怪異に遭遇したい!
などのご希望があられる方は、採用できるかは不明ではございますが、こっそりアクションにお書き添えいただきますと、リアクション内で使用される可能性がございます。
噂の原因
二階の最奥、通路の先に一際大きなドアがあります。
ドアを開けて中に入ると、かなりだだ広い部屋の中央に、一匹の三毛猫がいます。これが今の屋敷の主です。
○屋敷の主
猫の尻尾は二つに割れており、人の言葉を解し、人の言葉を喋ります。
しかし、三毛猫は真正の物の怪と化しており、今は螺旋階段の家の主として、肝試しに来た人間が話していた数々の噂を模倣し、それでおびき寄せた人間の『生気や記憶を貪り喰う』ことしか頭の中にありません。
※このシナリオに限り、PC様が三毛猫に捕食された場合、あるいは館内の怪異に捕まった場合は、洋館に入っている間の記憶は削除され、しばらく心神喪失状態に陥ります。
この三毛猫と出会えば、戦闘は必須となります。
戦闘
行動に、根本原因を突き詰めて対処したい方向けとなっております。
戦闘を回避したい方は、屋敷二階の最奥に向かう前に、屋敷を無事に飛び出すことで無傷で戦闘回避が可能です。
三毛猫は、本体の他に霊体を展開して、その部屋に収まる規模まで巨大化して襲いかかって来ます。
本体の三毛猫は動かず、霊体のみが動き、こちらにダメージを与えてきます。
○巨大化した霊体
攻撃内容は以下の通りとなります。
・丸かじり
頭から丸かじりされます。受けたPC様はほぼ一撃で戦闘不能となります。
・爪引っ掻き
血は流れませんが、抉られ方が深いと一時的な茫然自失状態に陥ります。
・なぎ倒し
複数のPC様を手で薙ぐように払います。ダメージは軽微ですが、ほぼ全体攻撃です。
※ターゲットの選択などにはダイス判定を行います。
※三毛猫は完全な害意のある物の怪で、人語は解しますが、戦闘回避の説得は困難です。
※神社のお守り、御札など、除霊用のアイテムを所持、使用する場合には、三毛猫が弱体化する可能性があります。
(日常的にそれらのアイテムを持ち合わせていない設定のPC様がご使用される場合には、入手するアクションの記載をお願い致します)
※大きな霊体であっても、武器などの物理攻撃で微弱ですがダメージが出せます。
(本体の三毛猫には物理攻撃で、通常のダメージが見込めます)
○PL情報
・三毛猫のいる二階の最奥は、広い寝室となっており、大きなベッドの上には本来の屋敷の主人であった人骨が横たわっているのが見えます。
・三毛猫は元々その主人の飼い猫でした。しかし、猫も死したのち寝子島中の負の噂を一身に受け続けた結果、賢しい物の怪として変化し、現在は人を騙してでも相手を捕食しようとします。
注意事項
▼アクションについて
○同じシーンでのアクション競合
同一場面内にて意見が対立するアクションが発生しました場合には、
内容の吟味と併せまして、ダイスによるマスタリングを行う可能性が御座います。
※そのマスタリング結果によりましては、競合した方どちらかの行動が反映されますが、
成功失敗問わず、その結果がエンディングにて良い方向へ向かうとは限りません。
元から色々と良くない噂が立つ場所であったが故に、そこに本物の物の怪が現れました。
三毛猫の対処は方法によってはエピローグに変化が起こりますが、退治は強制ではありません。
それでは、どうか宜しくお願い致します。