螺旋階段の家｜リアクション

螺旋階段の家

「む……やっぱり図書館はダメだったか……」
　御剣刀は歩道を大足で歩きながら呟いた。

　件の『螺旋階段の家』の情報を何でも良いから知ろうと、図書館で地図などを手当たり次第に開いたのだが、本による情報では大まかすぎて、その詳細まで知る事はできなかった。

　これでは、役所も同じようなものであろう。
　待ってはいられない──それらは『今』欲しい情報であり、刀は、そこで不安なまま停滞している暇があれば、一瞬でもより早く心強い方を選びたい。

　その結果、刀は生きている知恵──旧市街、参道商店街に住んでいる、顔なじみのお年寄り達の話を片っ端から聞く事にしたのである。

　そして、聞いて回ること３人目。
「ああ、ギンさんのところかい？　元気にしてるかねぇ」
「知ってるんですか！？」
「ええ、『土性ギン』さんって言ってね。家をお化け屋敷だなんだ言われて良く癇癪起こしてたけれども、最近は本当に姿を見なくなっちまって……
　ミケちゃんのご飯だけはきちんと買いに来てたのに、どこかに引っ越しちまったのかねぇ」

「ミケちゃん？」
「ああ、飼っていた三毛猫の名前だよ。大層可愛がっていてねぇ……」
「──。
　お化け屋敷の噂って、どんなのがありましたか？」

「……」
　刀は急ぎ歩きながら、話に聞いていた内容を頭の中で纏め上げていた。
　通り掛かった寝子島神社でしばらく足を止め、俯きながら考える。
　それはこれから向かう場所に対しての、思考というよりも察知の類いであったかも知れない。

「すみません、お守りとかお祓い用の道具ありますか？」

　　　　　　　　　　　　　　　　　◆　　　　　　◆　　　　　　◆

　八神修は、丁度到着した屋敷の玄関前で、その景観を観察していた。
　手には、知り合いのつてにより、寝子島外の大社にある樹齢数百年の杉から切り出した念珠と、バッグには厄除けの御札が入っている。
　どちらにも修には無縁であり、己の所持品ではなかったが、今回は身に付けての来訪は正解だと判断した。

「これは……」
　目に入るのは、隙間が無いだけで機能を果たしているかも怪しい劣化した扉。煤けた壁に、一部が欠けた窓ガラス。
　ビデオ録画は開始早々にジジジ、と不吉な音を立てて動かなくなった。併せて撮ったフィルム写真も、現像するまで不明だが、噂から想像すればまともに写っている保証は無い。

　ふと目をやり、鍵が既に誰かに破壊されている玄関ポストを見つけ、中の郵便物を確認する。
　そして、幾つかの光熱水費の督促状と思われる封書から、宛先名に目を留めた。
「『土性ギン』……さん、か」
　心霊スポットとしての噂が広まりきったこの状況で、この場所はすぐにたどり着けた。
　しかし、ここに光熱水費の書状が届いていたということには、特別な意味がある。

「銀行の引き落としでも、通知は来る……だから、通知が無い場合は無人だから、何もない。
　逆に……通知がある廃屋なら──そこには『死体がある』かも知れないって事だ」

　修は、覚悟を決めたように正面から廃屋を見つめ、鍵の掛かっていない錆び付いたドアをゆっくりと開けた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　◆　　　　　　◆　　　　　　◆

「ここは、裏口か」
　刀が螺旋階段の家を目にして真っ先に見つけたのは、ひと一人が通り抜けるのがやっとの小さな勝手口だった。
「ここから入ろう。玄関から入るより手っ取り早い。
　……今までの噂だと、二階か」

　刀は、竹刀袋からずっと密かに隠し持ってきていた、刃引き刀を取り出し、いつでも抜けるように手を掛けた。
　やはりここにも、ドアに鍵は掛かっていない。
　刀は続く薄闇を見据えたまま、躊躇いなくそのドアの中へと姿を消した。

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