螺旋階段の家｜リアクション

螺旋階段の家

　屋敷へ足を踏み入れる人影がちらほらと見える中。ふらりと茂みの向こうから、興味深く覗き込むように建物を確認する紗雪幽の姿があった。

「ふーん、ここが噂の螺旋階段の家か」
　ほうほう、としばらく周辺を観察してから、その眼鏡に適った様子で楽しそうに頷いてみせる。

　幽の実家は寺であり、幼い頃から住まう中で、ちょっとした心霊現象や曰く付きの品などの類には、完全に精神的耐性が付いている。
　それが高じて、高校生となった今ではクラスメイトに怪談話などをしたり、純粋に驚かしたりと、いたずらっ子の本領を心置きなく発揮しており、本日もその噂の心霊スポットで新しいネタを仕入れに来た訳だが、

　ガッチャガッチャ……ガッチャガッチャ……

「うん、雰囲気あるしなんか怖い体験しないかな。
　そしたらその体験を友達に話して、驚かせることができるし？」
　ウキウキした様子が隠せずに、嬉しそうに満面の笑みがこぼれる。しかし同時に、

　ガッチャガッチャ、ガッチャガッチャ

「え？　何、もう心霊現象！？　早──」
　幽は、先ほどから不審なまでに硬い物がぶつかり合っている音に、慌ててそちらの方に目を向けた。
　すると、そこには。

「緊急用の『鉄アレイ』だけど、どうも収まりが……もう少し上手く……」

　ガッチャガッチャ……

「──幽れ……じゃないよな。先客か。
　こんにちはー。そちらも肝試し？」
　幽の視線の先には、廃屋の玄関の隣で座り込み、大きなリュックに荷物を出し入れしている中学生くらいの女の子がいた。
「あ、はい。
『亡くなった主人の霊が出る』って噂を聞いて、一度本物の幽霊を見てみたくて」
「うわ、ここの主人亡くなってるの？」
「噂ですけど、本物の幽霊が見れたら良いなって」
　少女──新田樹は屈託のない笑顔でそう告げた。それは、幽と同じく心霊現象を純粋に楽しみにしている目だ。

「あー……ナンパとかじゃなくてー。
　もし良かったら、邪魔者になるかもだけど、ちょっとついてってもいい？」
　きちんと前置きをして「誰かと一緒の方が、楽しいし」と幽が付け足すと、樹は一瞬その目を確認するように見てから、小気味よい笑みを隠さずに笑って見せた。

「そちらも探検に来たんですね。
　行きましょう。楽しみです♪
　あ、少々待ってください。今、荷物整理をしてて……」
　そう言うと、樹は再び地面に置いたリュックの中を漁り始めた。

　すると、中から出てくるのは、懐中電灯付きのヘルメットに安全靴にビデオカメラ──この辺りならばまだ分かる。
　しかし、続くのは常備しているという警棒、ガスガン、最後に続くのは２kgの鉄アレイ×２……

「これ、全部お化け対策……？」
「どれも必需品です」

　幽もズボンのポケットに、自衛用に実家の寺の魔除け札を用意している。
　しかし、今。
　目の前にある、近代文明の証であるアタッカーな武器のインパクトに殴られた幽は『もしかしたら、オカルトに御札は時代遅れなのかも……』と、目を遠くしながら、ただその光景を眺めることしかできないでいた。

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