●作業４日目　エピローグ●


「うわーーぁい！！」
　明けて翌日は、休日だった。朝からプールにやって来た生徒たちは、その光景に歓声を上げる。プールのほとんどの部分が、膝丈ほどの水深の水に戻り、その所々に大きな豆腐の玉が浸かっているのだ。そのいびつな球型になった豆腐は全部で、８つ。
　残りのドジョウの数と一致する。つまり、あの豆腐玉の中に、最後のドジョーズがいるのだ。
　ここまで来ればもう、作業はあっけない。
　桃を割るように次々と豆腐玉を割って、
「キュッキュウ〜！」
　メンバーたちは、残り８匹のドジョウを全て回収したのだった。

　１０１匹ドジョーズ回収、
　ここにコンプリート！

「「やったあああ！！」」
　喜び合う生徒たち、そしてすでに一部のドジョウたちは、魂行 凪や桜崎 巴などの里親に引き取られていったと聞き、哀坂 零葉も思案顔。
「私もドジョウ……助けてあげたいけど……どうしましょう。引き取れて数匹かしら」
「あたしもドジョウゲットしたのだーっ！」
　桃原 空音も、うち３匹を貰えることになり、妄想にヨダレが止まらない。
「３匹か。なら桃原ちゃん、ドジョウの種名をもじって、
　シマさんとかフクさんとかカラさんとかって名前はどうだ？」
　と宇佐見 望月がその横でアドバイス。
「ぐふふ、このドジョウさんを使って、あんなことやこんなことを……
　あっ、あと出来たお豆腐も売って大儲けなのだ！」
「ふむ？　念のため言っておくが……」
　それを聞いた旅鴉 月詠が、いちおうの忠告。
「この豆腐は、ドジョウから離して１時間経つと、水に戻るのだからな。
　そんな豆腐を売りさばけば、サギだと後でクレーム必至だと思うが……。
　もちろん、分かっていて売るというなら、私は止めはせんがな」
　と、どこまでもクールな月詠さんだ。
「さて、それはともかく、プールの水は張り直さねばならんな」
　改めてプールを見回すのは、八神 修。彼の言う通り、ポンプを使っての豆腐汲み出しや、料理などで大量に豆腐を使ったため、プールの水の全部が元に戻っているわけではない。減った分の水を給水口からドバドバと足し始め、
「水を張り終わったら、プール開きの準備が整ったと相原先生に報告しに行こう。
　もっとも、まだあと数時間はかかるだろうが……」
「数時間か……はー。待ってる間、腹減るなー」
　そうこぼすのは、桜井 ラッセルだ。
「けど豆腐はプールのだと思うと食べる気でねーし……ん？」
「あなたのそばに蕎麦屋すすきのーすすきのー」
　そこにガラゴロと台車を押してやって来たのは、薄野 五月である。
「薄野、なんだよそれ？」
「学校の許可が取れましたので、家の蕎麦を家庭科室で料理してきました。
　お昼ご飯にいかがでしょうかー？」
「マジかよ！　え！？　いいのか！」
「ふふ、はいー。豆腐を美味しく食べるには別の味も必要でしょうし」
「んじゃ俺配ってくる！　おーい、メシにしようぜー」
　器を持ってプールサイドを回り、みんなに手渡す桜井。思わぬ差し入れにみんなも手を叩いて喜び、ちょっとした打ち上げのようだ。
「やったぜ！　弾けろ！　俺の胃袋ー！！」
　あいかわらずの食欲で、何枚ものざるそばをみるみる平らげる柊沢 北斗、
「ぬん！　この天ざるそばも美味しいねぇ」
　真辺 伸幸も、海老とシシトウの天ぷらを頬張ってニコニコだ。
「うまい！　つか俺、蕎麦屋の蕎麦はじめて食べた……」
　と感動する桜井に、
「ふむ、桜井君の家は貧乏だったのかね？」
　畑生 言嗣がズケズケと言うが、桜井にも事情があってのことなのだろう。
　一方、器を持って昨日の相棒・亜魚隈 猯利を探していた五月だったが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。釣り以外のことにはおそらく、興味が無いのだろう。
「今度は、お店に食べに来ていただきたいものですねー」
　また、片手で器用に蕎麦を手繰りながら、皆の間を回って、大量の赤褌を配り歩いているのは後木 真央である。逆巻 天野を見つけて、
「天野ちゃんもおひとついかがなのだ？」
「僕ははかないよ」
「無理することないのだ天野ちゃんなら絶対似合うのだ」
「はかないと言ってるだろう……後木が自分で穿きなよ」
「真央ちゃん褌の締め方知らないのだ」
「マユミちゃん！　ドジョウ捕まえたご褒美におっぱい揉ませて！」
　そこに聞こえてきた横嶋 下心の叫びに、振り向く２人。
「……真央ちゃん、下心ちゃんへのお仕置きは、赤褌を穿かせるのでも良いと思うのだ？」
「それなら協力しよう」
「うわ何をするんだい君たち、ちょっとちょっとア゛ーーーーーーーーッ！？」

◇

　そんなこんなで楽しい打ち上げタイムは瞬く間に過ぎ、プールも再びなみなみとした水位に満たされた。元に戻ったプールを感慨ひとしおで眺めるのは、水泳部の部員たち。
「よかったのだ、これでしゃおりーが知ってるプールに戻ったのだ！」
　ぴょんぴょん手放しで李 小麗が喜べば、
「ふう、おつかれさま。これでようやく、プール開きを迎えられるわね。
　プール掃除から始まったあたしたちの苦労も、報われるってものだわ」
　部長の佐々 寿美礼が、汗を流した部員たちをねぎらう。
　その横で、さっきから何だかムズムズしているように見えるのは、鏡箕 萌。
「どうしたの、鏡箕ちゃん？」
「およぐぜーちょう泳ぐぜーい！！（どっぼーーん！）」
　寿美礼が振り返った瞬間、さっとその目を盗んで先に志波 武道が跳び込んだ！
「あっ、ちょっとブドー君！　プール開きはまだ……」
「やっぱあたしも我慢できねーぜ！　もう豆腐じゃないなら泳ぐ！（ざっぽーーん！）」
「ちょ、鏡箕ちゃんまで……」
　小麗と顔を見合わせる寿美礼、でもその顔がみるみる笑顔になって、
「ま、いーよね！　あたしたちも泳ごっか！」
「うんなのだ！」
　御剣 刀も、北条 冬華と小山内 海の２人を振り向き言う。
「俺たちも、ひと泳ぎしよう！
　皆で頑張ったんだ、これくらいの特権があっても良いよな？」
「はい、行きましょうか海さん？」
　海も頷き、御剣と冬華に続いて飛沫を上げてプールに跳び込む。
　一方、その姿をタメ息まじりに見送るのは三希 環と七音 侑の２人だ。
「はぁ……カナヅチの僕にとってプール開きは嫌なんだよなぁ」
「あう……うちは泳げるけど、あの息継ぎが苦手で……」
　２人が無事にプール開きを迎えられることを、祈ろう。

◇

「皆さま、本当にお世話になりました……」
　そして最後に田村マユミが、プール復旧に関わった１人１人に、深々と頭を下げて回った。恵御納 夏朝と桜庭 円の説得により、残りのドジョウは『田村屋』に返されることになったのである。
「にゃーくんといっしょに、君のお家に食べに行くよ」
「にゃー！」
　仔猫の手を取り振りながら、その後ろで円が言えば、
「僕も……そうしようかな……」
　と夏朝ももじもじしながら言う。
「はい、是非いらして下さい。お待ちしてますね」
「あっでも猫は大丈夫かな？　どうなんだろう……
　おっ、お持ち帰りできる？」

【１０１匹ドジョーズ回収状況】

（残りあと０匹……MISSION COMPLETE！）

『豆腐プールはじめました。』　おしまい