「み・ず・ぎ・の・き・せ・つ!!!
わくわく!!! どきどき!!!!」
プール開きもいよいよ数日後に迫った、ある6月の放課後のことだ。
「ふえっへっへっ! あたしがどれだけ、この季節を待ちわびたことか!」
アホ毛もユカイなこのちびっ子は、普通科1年1組の
桃原 空音。
そして男の子のお尻が大好物の、ド変態でもある。
「プール開きと言えば、そう水着! 男の子の引き締まった尻、カワイイおしり!
ぐえっへっへっへっ……
滾る! 割りたい!! 割らせろ!!!」
プール掃除も終わったと聞き、滾るナニカを抑えきれずにすっとんできたこの空音。しかし、ひと目そのプールの水面を見るなり、彼女はこう叫んだ。
「!? な、なんじゃこりゃあ!」
見渡す限りの、いちめんの白。
そこにあるはずの水が消え失せ、代わりにやけにぷるぷるっとした物体がプールを充たしているではないか。
プールサイドからその見慣れた食品をツンツンし、恐る恐る口にする空音。
「やっぱり! トーフ……これ、
お豆腐なんだよっ!?」
そう、寝子高の
25メートルプールの水が全て、純白の豆腐(絹ごし)に変わっているのだ!
「どっ、コレはどうなってるのだ……およ?」
そこで空音は、今自分が手で崩した豆腐の断面から、細長い魚の尻尾がピチピチとハミ出しているのに気が付いた。
「ウナギ? ……にしては、小さいよね。
ドジョウかな?」
ぬめるその尻尾をつまんで、エイッと勢いよく空音がその尻尾を引き抜いた時、
「ドジョリーヌ!」
その声にあれっと振り向けば、こちらに向かってプールサイドを走ってくる、やけに頭が重そうな女生徒が。
「あれっ、マユミちゃん?」
あれは確か、同じ1組のクラスメイトの
田村マユミ(たむら・まゆみ)だ。ピチピチ暴れるドジョウを宙につまんだまま、空音がぽかんと見ていると、マユミは頭に載せていた金魚鉢をグイと突き出し、
「桃原様、そのドジョリーヌをここに!」
「えっ、う、うん……よく分かんないけど!」
言われるまま、ポチャンとその1匹を落とした途端、金魚鉢に満たされていた水が、今度はあっという間に豆腐に早変わり。
「わわっ!?」
「キュキュウ!」
その豆腐の凝固面から、モグラみたいに鼻面を出し、キュウキュウとやたら人懐っこく鳴くドジョウと、対照的にさめざめと泣くマユミ。
「おぉドジョリーヌ、ごめんなさい。
こんな所にあなたを置き去りにするなんて、私が間違ってましたわ!」
傍で聞いている空音の方はさっぱりワケが分からないが、どうやら
プールを豆腐に変えていたのは、この小さなドジョウの仕業だったらしい。
「ごめんなさい、実は……」
と事情を話すこのマユミは、旧市街にあるドジョウ料理専門店、『田村屋』の1人娘なのだが。
涙ながらの彼女の告白によれば、
「稚魚の頃から大切に育ててきたドジョウたちが、
来週いよいよ
地獄鍋で煮られてしまうんです……!」
襖越しにそれを聞いてしまったこの心優しき娘は、思い余ってドジョウを持ち逃げ。あてもなく夜の町をさまよった末に、ふと目に付いたこの学校のプールに、ドジョウたちを逃がしてしまったらしい。
「おまえたち、ここで強く生きるのよ……!」
キュウキュウ鳴くドジョウたちの声を振り切り、逃げるようにその場を走り去ったのが、今朝のこと。しかしやっぱり気になって放課後来てみたら、プールの水がこうして豆腐になってしまっていた、というワケ。
「不思議なことも、あるものですわね……(きょとん)」
「でも、よかったのだ! こうして、ドジョリーヌも戻ってきたワケだし……
って、えっ? ドジョウ……
たち?」
背筋を走るイヤな予感に、今だ元に戻らぬままの豆腐プールを、ゆっくりと振り返る桃原空音……。
「そうですわ、私がこのプールに逃がしたドジョウは101匹──
あと100匹のドジョウが、このプールのどこかに隠れているのでっす!」
「じょっ、ジョーダンじゃないよう!」
ピョンスカ跳び上がって、さあ変態小娘が怒り出した。
「もう、夏なんだよ!? あと数日でプール開きなんだよ!?
それまでに、このプールの水を元に戻せなかったら、
プールがびらけない……ッ
お尻様が! 男の子のカワイイ水着姿が、拝めないじゃないのさっ!?」
これはタイヘンだ! 由々しき事態である。付け加えるなら、空音は女子の水着姿も大好きだ!
「どうかお願いです、桃原様! あの子たちを探し出すのを、いっしょに手伝っていただけませんか」
しかし100匹とは、とてもこの2人で捕まえられる数ではない。水の中ならいざ知らず、相手は見えない豆腐の中を、掘り進んで移動しているのだ。
「こうしちゃいられないよ。誰か、もっと助けを呼ばなくちゃ!」
と携帯を取り出し、急いでねこったーに書き込みをする空音。はたしてどれだけの人が、この投稿を見て、集まってくれるだろうか?
プール開きまで、あと数日。
それまでに、プールを元通りに戻さなくっちゃ!
こんにちは、マスターの鈴木二文字です。
地獄鍋という料理をご存知でしょうか。別名、どじょう豆腐。
豆腐とドジョウをいっしょに火に掛けて煮ると、熱から逃れようと豆腐の中にドジョウが潜り込んで……
という、乱暴ものな料理です。実際には、ドジョウは豆腐の中に入ることなく煮えてしまうことから、
幻の料理と言われているそうですが、さて……?
▼シナリオ課題:
・豆腐プールを復旧して、元の泳げる状態に戻そう!
▼NPC情報・田村マユミ:
・世間知らずのドジョウ屋の娘。オカッパ頭に金魚鉢を載せています。よく転ぶ。泳げない。
・良かれと思ってやることが、ことごとく裏目に出る性格。プール復旧の役にはあまり立ちません(むしろ邪魔)。
・ドジョウが大好き。101匹のドジョウ全てに、独特なセンスの名前を付けています。
・『ひと』です。もれいびの存在については、うっすら知っている程度。
▼101匹ドジョーズ:
・マユミが育てたドジョウたち。よく人馴れしている。豆腐が大好き。
・将来どじょう豆腐として調理される際にきちんと豆腐の中に入るよう、稚魚の頃から豆腐だけを与えられて育った。
・神魂の影響で、「接触している半径1メートル以内の水を豆腐に変える」能力を、今朝から獲得。
・一度豆腐に変えられた水は、ドジョウがその場所からいなくなっても約1時間は豆腐のままです。
・つまりドジョーズを見つけてプールから取り除けば、その効果範囲にあった豆腐は、1時間後に元の水に戻ります。全てのドジョウを見つけ出し、プールを元に戻そう!
▼サンプルアクション
(1)見えないドジョウを、工夫してプールから探し出す。
(2)プールから物理的に豆腐を除去する。
(3)豆腐を料理して美味しく食べる。
(4)事件に関係なく、水着でキャッキャウフフする。
プール開きまではまだあと数日ありますので、必ずしも1日で片付ける必要はありません。PCさんで相談して、何日かに作業を分担しても良いと思います。
また、アクションに余裕があれば、捕まえたドジョウをどうするのかを、軽く言及しておくと良いかもしれません。もちろんPCの皆さんで食べちゃってもかまいませんが。
それではまた、リアクションでお会いできたらいいですね! 鈴木二文字でした。